形容動詞は形容詞?動詞?名詞?
学校文法の品詞の一つとして出てくる形容動詞ですが、なぜ「動詞」なのか疑問に思ったことがある人も多いのではないでしょうか?
形容動詞といえば、「元気だ」「静かだ」「やわらかだ」「ハンサムだ」などがあります。
ただ、現代日本語では、意味的にも、活用の形を考えても、動詞の要素を感じない人が多いと思います。
形容動詞は、意味的性質を考えると、「人やモノの様子や性質などを表す」という形容詞に近いです。
なお、日本語を学ぶ人向けの日本語教育では、形容動詞は「ナ形容詞」といって、形容詞扱いです。
ちなみに、なぜ「ナ形容詞」かというと、「元気な人」「静かな町」のように名詞と接続するときに「な」が出てくるからです。
「かわいい」「楽しい」などの、いわゆる形容詞は、「イ形容詞」といって区別しています。
また、活用の形を考えると、現代日本語では名詞に似ています。
名詞の「学生」(+助動詞「だ」)と、形容動詞の「元気だ」の活用を比べてみると以下のようになります。
- 「学生だ」「学生だった」「学生じゃない」「学生じゃなかった」
- 「元気だ」「元気だった」「元気じゃない」「元気じゃなかった」
形容動詞の活用は名詞(+助動詞「だ」)と似ているので、「形容名詞」という学者もいます(影山 1993)。
実は、形容動詞は、文法論上、最も問題の多い品詞の一つで、学説によって差異が大きい(松村 1971)と言われています。
なお、英語などの他言語では「形容動詞」はありません。日本で生まれた概念です。
「形容動詞」が「動詞」となっている理由
形容動詞は、性質は形容詞+文語文法の動詞の活用
形容動詞という名称を文法教育の場で最初に使ったのは、国文学者の芳賀 矢一(はがやいち)だそうです。
1904年の『中等教科明治文典』で、形容動詞について以下のように書いています(春日 1976, p. 57より引用)。
形容詞の一部として説けり。性質に於ては形容詞にして、活用に於ては動詞なればなり。
芳賀は、形容動詞を、形容詞の一部と考えていたことがわかります。
ただ、性質は形容詞だが、活用は動詞だと言っています。
ただ、この「活用」というのは、日本語の(口語文法ではなく)文語文法での活用のことです。
芳賀は、以下のようなラ行変格活用する「カリ活用・ナリ活用・タリ活用」をすべて形容動詞としました。
基本形 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | |
カリ活用 | 良かり | 良 | 良から | 良かり | 良かり | 良かる | 良かれ | 良かれ |
ナリ活用 | 静かなり | 静か | 静かなら | 静かなり/静かに | 静かなり | 静かなる | 静かなれ | 静かなれ |
タリ活用 | 索々たり | 索々 | 索々たら | 索々たり/索々と | 索々たり | 索々たる | 索々たれ | 索々たれ |
これらの活用はすべて語尾が「らりりるれれ」とラ行になっています。
形容動詞を別カテゴリーとして設けた理由については、以下のように述べています(春日 1976, p. 57より引用)
従来は形容動詞を立てずに単にありに連りたる形として説けり。児童紛しきを思ひて新に形容動詞をたてたり
今まで、形容動詞というカテゴリーがなかったことが、児童の誤解を招いてしまうのではと懸念したと述べています。
なので、新たな品詞として設けたというわけです。
学校文法に取り入れられる
その後、この形容動詞という新カテゴリーを支持する学者も出てきます。
例えば、吉澤義則は、1932年の「所謂形容動詞に就いて」の中で、以下のようにいっています(吉澤 1932 国語・国文 2(1): 1—37より引用)。
この所謂形容動詞は、一方、助動詞に連續する點に於て動詞的性質を有し、一方副詞法を有する點に於て形容詞的性質を持つてゐる。即ち動詞的性質はありながら動詞でもなく、形容詞的性質はありながら形容詞でも無い一種の用言である。
形容動詞は、動詞と活用は似ているが、副詞法を有するので形容詞的でもあるといっています。
「静かだ」や「元気だ」などの形容動詞だと、「静かに話す」「元気に話す」などと、副詞のように動詞を修飾することもできます。
「楽しい」「かっこいい」などの形容詞も、「楽しく話す」「かっこよく話す」など、副詞的に使えます。
なので、形容詞的性質を持ちながら、「ナリ」や「タリ」と接続して活用するので、動詞的でもあると考えたわけです。
橋本進吉は有名な国語学者ですが、彼も後に形容動詞というカテゴリーを取り入れます。
基本形 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | |
ナリ活用 | 静かなり | 静か | 静かなら | 静かなり/静かに | 静かなり | 静かなる | 静かなれ | 静かなれ |
タリ活用 | 索々たり | 索々 | 索々たら | 索々たり/索々と | 索々たり | 索々たる | 索々たれ | 索々たれ |
ただ、このときに「カリ活用」は省き、「ナリ活用」と「タリ活用」のみを形容動詞としました。
この区分が文部省の国定教科書「中等文法」に取り入れられ、今に至ります。
(今の学校文法は、基本は橋本文法をベースにしています。)
他の品詞分類での形容動詞の扱われ方
国文法には、大槻文彦の提唱した大槻文法、山田孝雄による山田文法、松下大三郎による松下文法、時枝誠記による時枝文法などあり、それぞれが品詞の分け方は違っています。
(なお、山田文法、松下文法、橋本文法、時枝文法は四大文法と呼ばれます)
橋本文法以外では、この形容動詞というカテゴリーは設けられていません。
まとめ
形容動詞になぜ「動詞」が入っているのかというのは、文語文法で、形容動詞の活用が、動詞と同じ活用(ラ行変格活用)をしているからということでした。
ただ、文語文法は、現代日本語ではほぼ使われていません。
なので、現代日本語に照らし合わせて考えた場合、「形容動詞」は紛らわしい名称になってしまっているのが現状だと思います。
ご興味のある方は以下の記事もご覧ください。
- 品詞とは何か?品詞の分類のポイントについて
- 連体詞とは何か?その例・見分け方と、なぜ多様な語が同じカテゴリーに入るのか?
- 述語の分類と、述語と述部の違いについて
- とりたて助詞とは?格助詞との違いについて
- 日本語の動詞の分類のまとめ
- 日本語の自動詞と他動詞の違いについて
- 日本語の能動詞と所動詞について
- 日本語の状態動詞と動態動詞(動作動詞・変化動詞)について
- 日本語の副詞の分類(情態副詞・程度副詞・陳述副詞)について
もし日本語の文法について詳しく知りたい方は、以下のような辞典も出版されています。
- 日本語文法学会(編)2014 『日本語文法辞典』2014