連体詞とは
日本語の学校文法では、品詞を以下の10種類に分けて考えることが多いです。
(詳しくは「品詞とは何か?品詞の分類のポイントについて」をご覧ください)
動詞、形容詞、形容動詞、名詞、副詞、連体詞、接続詞、感動詞、助動詞、助詞
ただ、この品詞の分類の仕方には、色々と異論もあります。
今回は、このうち、連体詞を取り上げます。
連体詞は、品詞の中でも印象の薄い類に入るのではないでしょうか?
他の品詞と比べて、語の数も少ないため、学校文法で体系的に学ばないケースも多いようです。
この記事では、連体詞の例と見分け方を説明した後、なぜこんなに雑多(にみえる)語が同じカテゴリーに入っているのかを説明します。
連体詞の例
連体詞には以下のようなものがあります。語尾が「た、だ、の、る、な」で終わる語が多いです。
連体詞の語尾 | 例 |
---|---|
「〜の」 | この、その、あの、どの、例の、ほんの、当の |
「〜が」 | わが |
「〜な」 | 大きな、小さな、おかしな、いろんな |
「〜た(だ)」 | たいした、とんだ |
「〜る」 | ある、あらゆる、いわゆる、きたる、さる、確たる |
その他 | あらぬ |
上記を見ればわかるように、「この」「その」「あの」「どの」の指示詞や、「大きな」「わが」など、多様な種類の語が入っている印象です。
混乱するポイントもいくつかあります。
例えば、「いろんな」は連体詞ですが、「いろいろな」は形容動詞に分類されます。
また、同じ指示詞でも「この」、「その」、「あの」は連体詞で、「こんな」、「そんな」は形容動詞に分類されることが多いです(これにも諸説あります)。
「大きな」「小さな」は連体詞ですが、「大きい」「小さい」は形容詞です。
連体詞の見分け方
なぜこんな多様な語が含まれているのでしょうか?
まず、品詞の分類する際には、以下のような基準で分類していきます。
- 自立語(一語で意味を表せるもの、単独で文節を作れるもの)か付属語(単独では文節を構成できないもの。助詞など)か
- 活用するかしないか
- 活用の形
連体詞は、①自立語で、②活用がなく、③名詞を修飾するものになります。
日本語の品詞分類で「活用がするかしないか」を基準の一つにしていることが、連体詞の分類で混乱を生む一因だと思います。
つまり、この「活用するかしないか」を基準に入れているので、「大きい」と「大きな」を別のカテゴリーにせざるを得なくなってしまうのです。
どういうことかというと、日本語の形容詞は「大きい」「大きかった」「大きくない」「大きくなかった」と規則的に活用します。
この活用を基準にした場合、「大きな」というのは活用しない(「大きなかった」など言わない)ので、別の分類にせざるを得なくなってしまうのです。
形容動詞も、「元気だ」「元気だった」「元気じゃなかった」というように活用します。また、動詞に連結して「元気に歩く」などといえます。
形容動詞の「いろいろな」は「色々だ」「色々だった」、「色々に」ということができます。
ただ、「いろんな」は「いろんなだ」「いろんなだった」「いろんなじゃなかった」「いろんに」というと違和感があるので、形容動詞に入れづらいわけです。
つまり、意味上の区別より、活用の有無という文法上の区別を優先させているのがわかります。
なので、意味的に考えると、「なぜ『いろんな』と『いろいろな』が別のカテゴリーなの?」という疑問が出てきてしまうということです。
連体詞の歴史
日本語の学校文法は、橋本進吉による橋本文法をベースにしています。
国文法には、大槻文法、山田文法、松下文法、橋本文法、時枝文法などあり、それぞれが品詞の分け方は違っています。
(なお、山田文法、松下文法、橋本文法、時枝文法は四大文法と呼ばれます)
大槻文彦の提唱した大槻文法や、山田孝雄による山田文法にはそもそも「連体詞」というカテゴリーはでてきていません。
松下大三郎の松下文法になって、主に用言を修飾する「副詞」の対立的なものとして、「副体詞」が置かれました。
橋本進吉の橋本文法もこの「副体詞」というカテゴリーを引き継いでいます。
時枝誠記による時枝文法になって、「副体詞」が「連体詞」と言われるようになりました。
現在は「連体詞」という語のほうがよく使われていますが、ときどき「副体詞」とも言われるのは橋本文法・松下文法に倣っているからだと考えられます。
まとめ
この記事では、連体詞の例、見分け方と、なぜ多様な語が同じカテゴリーに入るのという点について説明しました。
ちなみに、非母語話者向けの日本語教育では、連体詞というカテゴリーは使われていません。日本語を学ぶ人にとっては不必要(+混乱の元になる)だからだと思います。
ご興味のある方は以下の記事もご覧ください。
- 品詞とは何か?品詞の分類のポイントについて
- 述語の分類と、述語と述部の違いについて
- とりたて助詞とは?格助詞との違いについて
- 日本語の動詞の分類のまとめ
- 日本語の自動詞と他動詞の違いについて
- 日本語の能動詞と所動詞について
- 日本語の状態動詞と動態動詞(動作動詞・変化動詞)について
- 日本語の副詞の分類(情態副詞・程度副詞・陳述副詞)について
学校文法については、文法教育における品詞の扱いを概観する「品詞別学校文法講座」(全8巻)が明治書院から出版されています。
- 中山緑朗 ・飯田晴巳 (監)(2013)品詞別 学校文法講座 第1巻 品詞総論. 明治書院
日本語教育で使われている文法について知りたい方は、以下の本などに詳しいです。
- 原沢 伊都夫 (2010) 考えて、解いて、学ぶ日本語教育の文法. スリーエーネットワーク
時枝文法に関しては、文庫本も出版されています。
時枝の「口語篇」(1950年)と「文語篇」(1954年)を収録した本です。