敬意逓減の法則とは?
敬意逓減(ていげん)の法則とは、敬語に含まれている敬意が使われるうちに少しずつすり減っていく現象を指します(椎名 2022)。
「敬意低減」と表記されることもあります。
敬意漸減(ぜんげん)の法則とも呼ばれることもあります。
敬意逓減の法則の例①:貴様・御前
では、敬意が使われるうちにすり減るというのはどういう意味なのでしょうか?
敬意逓減の法則の説明で出されるのが「貴様」や「おまえ」のような呼称です。
「貴様」は、現在は日常会話では使う場面が限られていますね。
「貴様、何をしている!」など、アニメや漫画などでは目にすることはありますが、普段の会話ではほぼ使われないのではと思います(冗談で使うことはあると思いますが)。
国語辞典では、「男性が、親しい対等の者または目下の者に対して用いる。また、相手をののしる場合にも用いる。」(goo辞書)とあります。
この「貴様」ですが、室町時代末には「貴様」という漢字のとおり、敬意を表す呼称でした。
ただ、時を経るにつれ、その敬意がなくなっていき、今では相手をののしったり罵倒する場面で使われるような言葉になっています。
「お前」も、元来は「御前(おんまえ)」といい、貴人の敬称として使われていました。
ただ、近世末期から徐々に、相手をやや見下していうような呼称に変わっています。
つまり、「貴様」も「お前」も、相手が上位にいたはずなのに、時を経るにつれて、自分と同レベルか自分より下に下がってしまったということです。
このように、敬語に含まれる敬意が、使われれば使われるほどなくなっていくことを「敬意逓減(ていげん)の法則」といいます。
敬意逓減の法則の例②:貴様・御前
先ほどは敬意がすり減っていき、上位にいたはずの相手が、自分と同じ、または自分よりも下に下がってしまう例でした。
その逆で、自分が下位にいたはずなのに、自分が相手より上になり、上下関係が逆転することもあります。
例えば、「してさしあげる」がその例です。
「差し上げる」は謙譲語です。「メールを差し上げます」など言いますね。
この「さしあげる」を使った表現として、「~してさしあげる」があります。
「~してさしあげる」は、元来は、自分がへりくだることにより、相手を上位に置くものでした。
ただ、現在、「遊んでさしあげる」「読んでさしあげる」など言うと、尊大で恩着せがましいイメージがあるのではないでしょうか?
つまり、自分が下位にいたはずなのに、時を経るにつれて、自分が相手より上の立場にいるような表現になってしまったのです。
「~してさしあげる」は現在、使用頻度は少なくなっています。
これも敬意逓減の法則の例です。
敬意逓減の法則とは?
敬意逓減の法則について簡単にまとめました。
興味深いのは、「貴様」「お前」「してさしあげる」などの例は特別な例ではないということです。
どの敬語も敬意逓減から逃れられないといわれています(椎名 2022)。
この記事を書くにあたって参考にしたのは以下の本です。
最近「させていただく」という表現が多用されています。この本では、人々はなぜ「させていただく」を便利だと感じるのか、人々はなぜ「させていただく」違和感を覚えるとのか、なぜ「させていただく」が好まれるようになったかを考察しています。
敬意逓減の法則も用いながら、「させていただく」がどう使用拡大していったのかを説明しています。
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