IPA(国際音声記号)とは
IPA(International Phonetic Alphabet:国際音声記号)は、世界中の言語の音声を記述するために、国際音声学会が定めた音声記号です。
IPAがわかっていると、知らない言語でも、IPAで記述さえしてくれれば、発音がわかります。
なお、IPA を使って音声を表すときは、[ ]で囲むことになっています。
ちなみに、英語を学ぶときも、cat[kǽt]というように発音記号が[ ]で表記されていることが多かったのではないかと思います。
(辞書に記載の発音記号はIPAを簡略化したものが多く、IPAはもう少し記述が複雑になっています。)
ただ、ある音がどのIPAの音声記号に当てはまるのかを考える際には、何らかの基準がなければいけません。
子音の場合、IPAは、有声性・調音点・調音法という三つの基準を使って判断します。
この3つをざっくり説明すると以下のようになります(川原 2022)。
- 有声性:声帯が振動するかどうか
- 調音点:口の中のどこで発音するか
- 調音法:どのように発音するか
例えば、バ行の[b]は、「voiced labial explosive (有声両唇破裂音)」と言われます。
「voiced (有声)」「labial (両唇)」「explosive( 破裂音)」のそれぞれが、以下のように有声性、調音点、調音法を示しています。
- 有声性:有声
- 調音点:両唇音
- 調音法:破裂音
この記事では、子音の音を定義する時の基準となる、有声性、調音点、調音法について簡単に説明します。
有声性(voicing)
有声性は、声帯が振動するかどうかということです。
(声帯の振動をチェックする方法については「有声音・無声音・有気音・無気音の違いについて」をご覧ください)
有声性は、有声音か無声音かで区別します。
- 有声音:声帯が振動する(例:[g][z][d][b][m][n])
- 無声音:声帯が振動しない(例:[k][s][t][p])
有声音は、日本語だと濁音のガ・ザ・バ・ダ行の子音[g][z][d][b]、マ・ナ・ラの子音[m][n][ɾ]などがあげられます。
無声音は、日本語だと清音のカ・サ・タの子音[k][s][t]と、半濁音のパ行の子音[p]などがあります。ハ行も[ h ] [ ç ] [ ɸ ]という3つの子音がありますが、いずれも無声音です。
ちなみに、日本語の濁音と清音は、「は行」を除き、対になっています。
例えば、清音のカ行の[k]は、unvoiced velar plosive(無声軟口蓋破裂音)、濁音のガ行の[g]は、voiced velar plosive(有声軟口蓋破裂音)です。
つまり、調音点(軟口蓋)・調音法(破裂音)は同じですが、声帯の振動の有無のみが違うという音になります。
調音点(place of articulation)
調音点は、口の中のどこで発音するかということです。調音点は全部で 11 種類あります(もう少し細分化する人もいます)。
子音は、舌や唇などで、息を断ったり、空気の流れを狭くして作る音です。
つまり、調音点は、空気の通り道を閉鎖したり、狭めたりする場所になります。
調音点のだいたいの場所は以下の図のとおりです。
例えば、[p]の音を発音するときは、両唇で息を遮断して、それからそれを解放することによって音を出しています。
両唇を使って空気の流れを閉鎖しているので、「両唇音」になります。
調音点を唇から近い順に並べると以下のようになります。
名前(日本語) | 英語表記 | 説明 | 例 |
---|---|---|---|
両唇音(りょうしんおん) | bilabial | 両唇を使って出す音 | 日本語の「パ」の子音[p] |
唇歯音(しんしおん) | labiodental | 上の前歯と下唇を使って出す音 | 英語の[f]の音 |
歯音(しおん) | dental | 舌先と上の前歯との間で出す音 | 英語の th[θ]の音 |
歯茎音(しけいおん) | alveolar | 舌先と歯茎で出す音 | 日本語の「サ」の子音[s]、「タ」の子音[t] |
後部歯茎音(こうぶしけいおん) | postalveolar | 舌先と歯茎後部で出す音 | 日本語の「シ」の子音[ʃ] |
そり舌音(そりじたおん) | retroflex | 舌先・舌端と、後部歯茎~硬口蓋前部で出す音 | 中国語のch [ʈ͡ʂʰ]やzh [ʈ͡ʂ]の音、日本語にはない |
硬口蓋音(こうこうがいおん) | palatal | 前舌と硬口蓋を使って出す音 | 日本語の「チ」の子音[ç] |
軟口蓋音(なんこうがいおん) | velar | 後舌と軟口蓋を使って出す音 | 日本語の「カ」の子音[k] |
口蓋垂音(こうがいすいおん) | uvular | 後舌と口蓋垂(軟口蓋の奥端)を使って出す音 | 日本語で「ほん」というときの「ん」[ɴ]の音、フランス語(パリ)の「r」の音[ʁ] |
咽頭音(いんとうおん) | pharyngeal | 舌根と咽頭壁を使って出す音 | アラビア語の「ح」の音[ħ]、日本語にはない |
声門音(せいもんおん) | glottal | 声門を使って出す音 | 日本語の「ハ」の子音[h] |
調音法(manner of articulation)
調音法はどのように発音するかということです。全部で 8 種類あります(これももう少し細分化する場合もあります)。
名前(日本語) | 英語表記 | 説明 | 例 |
---|---|---|---|
破裂音(はれつおん) | plosive | 唇・舌などで空気の流れが閉じられた後に、解放されてできる音 | 日本語の「パ」の子音[p] |
鼻音(びおん) | nasal | 鼻に空気が抜ける音 | 日本語の「マ」の子音[m] |
ふるえ音(ふるえおん) | trill | 唇や舌を連続的に振動して出す音 | スペイン語の巻き舌の音[r] |
はじき音(はじきおん) | tap/flap | 1回のみ素早くたたいて出す音 | 日本語の「ラ」の子音[ɾ ] |
摩擦音(まさつおん) | fricative | 口の中に狭い隙間を作り、その中の空気が通りぬけるときに、摩擦を発生させる音 | 日本語の「サ」の子音[s]、ザの子音[z] |
側面摩擦音(そくめんまさつおん) | lateral fricative | 舌の側面で摩擦をおこす音 | ウェールズ語の「ll」[ɬ]の音、日本語にはない |
接近音(せっきんおん) | approximant | 口の中を狭めるが、狭める度合いが緩やかで、空気がなめらかに流れる音 | 日本語の「や」の子音[j] |
側面接近音(そくめんせっきんおん) | lateral approximant | 舌の片側又は両側から空気が抜ける音 | 英語の「l」の音 |
なお、IPAで一番多いのは摩擦音です。次に多いのは破裂音になっています。
IPAの子音表(2020)
上記の3つの基準点でまとめた表がIPAの子音表です。
複数のバージョンがありますが、2020年改訂版のものは以下のようになっています。
最上段が調音点です。一番左の列が調音方法です。
同じセルの中の左側が無声音、右側が有声音になっています。灰色の部分は調音できないとされている子音です。
まとめ&ご興味のある方は
この記事では、以下のとおり、子音の有声性・調音点・調音法の三つの基準について説明しました。
- 有声性:声帯が振動するかどうか
- 調音点:口の中のどこで発音するか
- 調音法:どのように発音するか
興味のある方は、以下の本がおすすめです。
わかりやすく音声学について説明しています。図・グラフ・表などもあるので見やすいです。
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