この記事では地域方言(regional dialect)と社会方言(social dialect)の違いについて説明します。
地域方言・社会方言の違い
地域方言と社会方言の違いは以下のとおりになります。
- 地域方言:各地域に根ざしたことば
- 社会方言:階級やジェンダー、年齢、職業など、社会において共通の属性を持つ集団が使うことば
地域方言
地域方言というのは、各地域に根ざしたことばのことです。
広島弁、大阪弁、熊本弁、博多弁などが入ります。
日本の地域方言は、本土方言(東部方言、西部方言、九州方言)と琉球方言にわけて考えることが多いです。
(ただ、「言語と方言の違いについて」の記事にも書きましたが、どの基準で「方言」といっていうかは微妙なところです。)
方言コスプレ
地域方言というのは、その地域で生まれ育ったり、家庭内で養育者が話すのを聞く中で、身に着けていくことが一般的です。
ただ、関西出身でないのに、関西弁をあえて使ったりすることもあります(関西出身でなくても、「何いっとんねん!」とか言ってみたことがある人もいると思います)
『「方言コスプレ」の時代――ニセ関西弁から龍馬語まで(田中ゆかり)』では、関西方言はおもしろいなどといった、方言のステレオタイプに基づいて、コスプレを着脱するように方言を使うことを「方言コスプレ」と呼んでいます。
新方言
地域方言に関連して、「新方言」と「ネオ方言」という概念も提唱されています。
「新方言」は井上史雄が1985年の『新しい日本語―<新方言>の分布と変化』などで提唱したものです。
新方言とは、今まで標準語になかった語彙を方言から取り入れて使うことをいいます(山口 2019)
方言をもとにしていますが、元の方言の使い方とは異なっているため「新方言」と呼ばれています。
若者が使用し、改まった場面ではなく、くだけた場面で使われるのが特徴です。
例としては、「ウザイ」があります。「うざい」はそもそも「うざったい」という東京多摩地区のことばでしたが、それが「うざい」と新しい語形で使われるようになりました。
「むかつく」も新方言の例です。そもそも、「吐き気がするぐらい気持ち悪い」という意味の関西弁でしたが、「他人に対して腹が立つ」という意味で新たに使われるようになりました。
ネオ方言
「ネオ方言」は1980 年代に真田信治が提唱したものです。
これは、共通語と標準語の接触によって生まれた、共通語を一部とりいれた方言のことです(山口 2019)。
ネオ方言の例として、よく挙げられるのが「こーへん」です。
標準語の「こない」は、関西弁だと「けーへん」「きーへん」でした。
ただ、標準語の「こない」との接触により新たに「こーへん」が生まれました。
社会方言
社会方言は、階級やジェンダー、年齢、職業など、社会において共通の属性を持つ集団が使うことばです。
階級に基づく社会方言で思い出すのは、オードリー・ヘプバーン主演の『マイ・フェア・レディ (字幕版)』ですね。
この映画では、言語学者のヒギンズ教授が、下町生まれの娘のイライザを、レディに仕立て上げるストーリーです。
イライザの話すコックニー英語を上流階級のレディの英語に変えるために、ヒギンズ教授が発音指導をします。
ジェンダーによるものだと「おれ」や「あたし」など、ジェンダーによる言葉遣いの違いが入ります。
年齢によるものだと、若者ことば、幼児語が挙げられます。
上記にあげた「新方言」というのも、主に若者に広く使われているということを踏まえると、社会方言とも言えると思います。
職業に基づく社会方言の例としては、舞妓・芸妓の使う「京ことば」があげられます。
日本版「マイ・フェア・レディ」ともいわれる「舞妓はレディ」という映画があります。
この映画では、「鹿児島弁と津軽弁」を話す主人公に、舞妓の使う「京ことば」を教えます。
この「京ことば」は京都の地域方言と共通するところも多いです。
ただ、「かんにんどす」「おきばりやす」など、舞妓や芸妓以外の一般の人が日常的に使う言葉でないものも多く含まれているため、社会方言と言えると思います。
日本語の方言に関する本
地域方言と社会方言について簡単に紹介しました。何かのお役に立てれば幸いです。
ご興味のある方は以下の書籍等もご覧ください。
新方言とネオ方言については以下を参考に記載しました。