コネクショニズム(Connectionism)とは
この記事では、コネクショニズムと第二言語習得について紹介します。
コネクショニズムは、特に1980年代後半以降、人間の認知の仕組みとして提唱された概念です。
コネクショニストモデルや、ニューロネットワークモデル(Neural Network Model)、並列分散モデル(Parallel Distribution Processing Model:PDP)などと呼ばれることもあります。
以前は、脳には中枢部があってそれがコマンドを出すことで、情報を処理するという認知モデルが受け入れられていました(記号主義や形式主義と呼ばれます)。
コネクショニズムでは、そのような中枢部が存在するのではないと考えました。
脳の中には1000億個のニューロンが存在するといわれています。ニューロンは別のニューロンとつながり合い、脳の中で複雑なネットワークを作っています。
コネクショニズムは、情報処理は脳のニューラルネットワーク(神経回路)を形成していくプロセスであると考えます。
コネクショニズムはAIをはじめ、様々な分野に影響を与えていますが、第二言語習得にも応用されています。
Ommagio Hadley (2001, p. 74)は、コネクショニズムの特徴として以下の6つを挙げています。
- 生得的な言語学習のためのシステムというのは存在しない。
- 言語学習は、複雑なニューロンのネットワーク内で、処理ユニット同士の結合が強化されることである。
- 認知処理は、ネットワーク内で、同時並行的に分散的に進む。
- 知識というのは、処理ユニットそのものにあるのではなく、その結合にある。
- 結合の強さは、インプットにおけるパターンの頻度で決められる。
- 「ルール」のような行動をしていたとしても、コネクショニズムのシステム内で「ルール」というのは存在しない。
上記の6つについて、主にOmmagio Hadley (2001)や私自身の理解を基に説明していきます。
①生得的な言語システムの否定
コネクショニズムは、生得的な言語学習のためのシステムというのは存在しないと考えます。
この意味を理解するためには、1960年代頃から影響力のあった普遍文法についても知る必要があります。
人間は、基本はだれでも言語を習得することができますが、なぜ言語習得ができるのかというのが言語習得研究の課題でした。
普遍文法は、言語習得ができるのは、人間の脳には、そもそも生得的に言語を習得する能力が備わっているからだと考えました。
脳の中には、人類に共通の言語獲得装置(Language acquisition device)が存在すると考えたのです。
普遍文法の立場では、生まれたときにすでに言語を学ぶためのシステムが既に脳に備わっているので、生まれてからやることは、日本語なら日本語用に、英語なら英語用に、中国語なら中国語用にそのシステムを設定をすることです。
普遍文法は第二言語習得で影響力があったのですが、コネクショニズムはこの考え方を否定し、言語学習に特化したシステムは存在しないと言いました。
②処理ユニット同士の結合の強化
では、どうやって言語学習は行われるのでしょうか?
コネクショニズムでは、学習は、情報処理はユニットという原子要素の結合の強化によって起こると考えます。
あるパターンを何度も体験すると、その結合したユニットが活性化され、ユニット同士の結合が強くなっていき、結合パターンが形成されます。
例えば、「みかん」「リンゴ」「空」「雲」というと何色を思い浮かべますか?
みかんはオレンジ、リンゴは赤、空は青、雲は白を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
これは、今まで「オレンジ色のみかん」「赤いリンゴ」「青い空」「白い雲」という結合パターンをよく見聞きしたため、それぞれのユニットが結合し、強化された結果だと考えられます。
逆に、結合が強化されない場合、その結合は一度形成されたとしても、消滅していくと考えます。
③同時並行・分散的
さらに、情報処理は、同時並行的に進みます。
コネクショニズムは、情報処理は、以下のように、処理Aが行われ、次に処理Bが行われ、次に処理Cが行われるというように、直列的に行われるのではないと考えます。
コネクショニズムでは、下記のように、複数の処理が同時に行われていて、さらに互いの処理が影響を受け合うと考えます。
処理A、処理B、処理Cなどが同時並行的に進んでいる感じです。処理Aが処理A1のみでなく、処理B1や処理C2にも影響を与えていると考えます。
例えば、相手の内容を理解する際に、音声、文法、視覚情報、ジェスチャーなどの情報を、同時並行で脳が処理していると考えます。
また、これらのユニットは、分散的である(distributed)と言われています。
つまり、各ユニットは特定の意味を持っていませんが、他のユニットと結合することで意味を持つということだと思います。
「みかん」の例でいうと、「みかん」という音声情報は特定の意味を持っていません。ただ、他のユニット(色、形状、食感、味、使われる場面など)と結びつくことで意味があるということだと思います。
④知識は処理ユニットの結合
コネクショニズムによると、知識というのは規則ではなく、処理ユニット同士の結合によって表すことができます。
「みかん」の例でいうと、「みかん」という音声情報単体だけでなく、色、形状、食感、味、使われる場面などの情報との結合によって、「みかん」が何たるかという知識が生まれるということだと思います。
⑤頻度の大切さ
インプットが多ければ、その分、ユニット同士の結合は強くなっていくので、頻度が重要です。
「みかん」と「オレンジ」が結びつくパターンを体験すれば体験するど、脳の中で「みかん」と「オレンジ」の結合が強化されます。
⑥ルールの不在
コネクショニズムでは、言語の規則は存在しないと考えます。
第二言語習得の多くの理論では、言語の規則というものが存在し、言語学習者はその複雑な規則を学び、内在化していくと考えています。
コネクショニズムでは、学習というのは、ユニット同士が結合したり、結合が消滅したりするのを繰り返すうちに、どんどんニューラルネットワーク(神経回路)を形成されていくプロセスと考えています。
そのニューラルネットワークは、一見ルールっぽくみえるかもしれませんが、いわゆる規則ではなく、あくまでネットワークの集合と言えます。
例えば、日本語には「テ形」という形があります(「行って」「読んで」「書いて」などの形です)。
「ください」や「います」の前は、「行ってください」「読んでいます」のようにテ形を使います。「行くください」「読むいます」のような辞書形ではなく、テ形に接続します。
ただ、コネクショニズムに沿って考えると、日本語話者が「『ください』の前は『行って』」という言語の規則を学び、それを使用の際に適用しているわけではありません。
「書いてください」「書いています」「聞いてください」などのパターンをたくさん聞いたり使ったりしている中で、その結合パターンが強化され、自動に使えるようになると考えます。
まとめ
コネクショニズムについて簡単に紹介しました。
コネクショニズムに基づいた第二言語習得研究の数は多くないようですが(Gass and Selinker 2008, p. 220)、第二言語習得の概論ではだいたい紹介される理論だと思います。
第二言語習得とコネクショニズムについては以下の本に詳しいと思います。
コネクショニズムそのものについてご興味のある方は、以下の本があります。
Rumlhart and McClelland等の本です。第二言語習得関係の本でコネクショニズムについて言及するときに、この本を引用していることが多いです。
日本語でもコネクショニズムの本は複数出版されているようです。
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