スウェイン(Swain)のアウトプット仮説(Output hypothesis)について

アウトプット仮説とは?生まれた背景

アウトプット仮説(Output Hypothesis)というのは、メリル・スウェイン(Merill Swain) (1985)が提唱したものです。

アウトプットというのは、話したり書いたりする産出活動のことを指します。

アウトプット仮説はごく簡単にいうと、相手に理解可能なアウトプットすること(=相手にわかるように話したり、書いたりすること)が言語習得を促進するとする考え方です。

 

アウトプット仮説が生まれた背景

これだけ書くと、当たり前のことを言っていると感じるかもしれません。

ただ、アウトプット仮説をスウェイン(1985)が提唱するあたりまでは、話したり書いたりという活動は、単に学んだ知識を練習するためのものと考えられることが多く、アウトプットそのものが知識を作り出すものとはみられていなかったそうです(Gass and Selinker 2008, p. 326)

 

特に、当時の言語習得では、理解可能なインプットを与えることで習得が起きると述べたクラッシェンのインプット仮説が影響力がありました。

ただ、スウェインは、カナダでのフランス語のイマージョンプログラムを調査した結果、インプットだけでは不十分と考えました。

 

※ちなみに、イマ―ジョンプログラム(immersion program)とは、学習言語で教科を学ぶプログラムです。

フランス語のイマージョンプログラムの場合は、フランス語を学ぶのでなく、「フランス語数学/理科/社会を学ぶ」といったように教科を学びます。

もともとは1960年代からカナダで英語・フランス語のバイリンガル人材を育てるためにはじまりました。

イマージョンプログラムについて詳しく知りたい方は「イマ―ジョンプログラムの種類と成功の要因について」もご覧ください。

 

スウェインの調査だと、フランス語のイマージョンプログラムで学ぶ生徒は、言語を理解する能力は、ネイティブスピーカー並みだったのですが、フランス語で産出する能力はネイティブスピーカーには達していなかったそうです。特に文法の間違いが数多く残っていたそうです(Swain 1998)。

また、調査の結果、イマージョンプログラムの学生はそこまでフランス語で産出する機会が多くなかったことに気づきました。

 

ここから、インプットのみでは十分でなく、実際に話すなり書くなりして産出する行為が必要とスウェインは考えました。

また、ただ伝えるだけでなく、特に正確、一貫性をもって、適切に産出する機会を与えることが必要だと述べています(Swain 1985)。

なお、アウトプット仮説はインプット仮説を否定するものではなく、補完的なものであるとされています。

 

アウトプットの3つの機能

さらに、スウェインは、以下の3つのアウトプットの機能を挙げました(Swain 1985)。

  1. 気づき(Noticing)
  2. 仮説検証(Hypothesis-testing )
  3. メタ言語的機能(Metalinguistic function)

 

気づき

気づきとは、実際に学習者が意図を伝えようとしてはじめて、自分の意図がうまくいえなかったりして、言いたい事と言えることのとのギャップや、自分の「穴」があることにに気づくことです。

 

文章というのは、意外と文の構造などを理解していなくても、単語の意味さえわかれば理解できてしまうことが多いです。

例えば、「私は、明日、大学に行って講義を受ける」という文について考えてみます。

この文を理解する場合は、「私 明日 大学 行 講義 受ける」と羅列しただけでも、なんとなく意味がわかるのではないでしょうか?

 

ただ、この文を産出する場合は、文の構造を理解していないと難しいです。

「私」や「大学」、「講義」などの助詞もそうですし、「行って」と「行く」をテ形にする必要もあります。

 

アウトプットすることで、自分に足りない部分に気づくことができるとスウェインは考えました。

 

仮説検証

仮説検証は、学習者が産出する際に、自分なりの仮説を試しているということです。

 

例えば、中国語を学んでいる人だったら、「zh」と「ch」、「sh」、「qi」などの発音や声調には苦労する人は多いのではないかと思います。

中国語を話すときに、自分なりに理解した「zh」や「ch」の発音で話してみて、通じたり、通じなかったりすることで、「あ、この発音だと通じないんだ、じゃあ、この言い方をしてみよう」など必要に応じて自分のアウトプットを修正していくことになります。

うまく通じた場合は、「じゃあ、次も同じように言ってみよう」と思いますし、同じようにやっていても通じなかった場合は「やっぱり少しわかりづらいのかな」と微調整を加えることになります。

 

これは発音の例ですが、発音だけでなく文法や単語などでも、学習者は「この場面では、この文法・語彙が適切なのではないか」と何らかの仮説を持っていると考えられます。

そして、それを実際にアウトプットして試し、相手に伝わったか、伝わらなかったかという相手の反応を見ながら、自分の仮説を検証しているといえます。

スウェインは、アウトプットを通した仮説検証の繰り返しを通じて、正しい知識を学んでいくと考えていました。

 

メタ言語的機能

メタ言語機能というのは、アウトプットすることが、意識的に言語について考えるきっかけになるということです。

メタ言語というのは、簡単にいうと、「言語について話す」ということです。

例えば、「日本語は敬語がある」、「日本語の数詞は複雑だ」など、日本語について話している場合は、メタ言語になります。

 

アウトプットをすることで、学習言語の文法規則等について意識的に振り返ることができます。

例えば、「明日、大学に行って講義を受ける」という文を言いたかったのですが、「行く」という動詞を「行って」と活用できずに、「私は明日大学に行….」で止まってしまい、相手に「行って?」と助けてもらったとします。

そのときに、「あ、そうだ、『行く』のテ形の活用は、例外で『行って』だった」と意識的に言語について考えることができます。

 

アウトプットをすることで、インプットだけでは気づかなかった文法規則も意識することができます。

そして、意識的に言語について内省することが、その後の自分の発話をコントロールするとともに、知識を内在化させることにもつながるとスウェインは考えました。

 

ご興味のある方は

アウトプット仮説が提唱された後、アウトプット仮説を検証する研究もでました。

結果にばらつきはあるものの、おおむねアウトプットは学習に肯定的な影響があるといわれています(例:Izumi and Bigelow 2000)。

 

ご興味のある方は以下の記事もご覧ください。

※インプット仮説について紹介した記事です。

※アウトプット仮説とともに第二言語習得で影響力のある仮説です。

 

  • Swain, M. (1995). Three functions of output in second language learning. In G. Cook and B. Seidlhofer (Eds.), Principle and practice in applied linguistics: Studies in honour of H.G. Widdowson (pp. 125-144). Oxford: Oxford University Press.

↑スウェインの論文はこの本に収められています。