上位語(hypernym)と下位語(hyponym)の違いについて

上位語と下位語の違いについて

ある言語の中で、語というのはばらばらに孤立して存在しているのではなく、ネットワークのようにお互いに関係性をもっています。

語と語の関係性を示す用語として、同義語、類義語、同位語、対義語、上位語/下位語などがあります。

この記事では、上位語(hypernym)と下位語(hyponym)の違いを紹介します。

 

上位語と下位語は以下のように区別されます。

  • 上位語(hypernym):より広範囲の意味をカバーする語
  • 下位語(hyponym):より狭い範囲の意味をカバーする語

 

「より広範囲」「より狭い」という言葉からわかるように、この関係性は相対的なものです。

 

上位語と下位語の例

以下の図を見てください。

 

「犬」「鳥」「猫」というのは「動物」の一種です。別の言い方をすると、「犬」「鳥」「猫」はすべて「動物」です。

このとき、「動物」は上位語、「犬」「鳥」「猫」は下位語になります。

上位語である「動物」が、下位語である「犬」「鳥」「猫」のすべての意味範囲を網羅しているという形になります。

 

また、「プードル」「チワワ」「柴犬」というのは、「犬」の一種です。別の言い方をすると、「プードル」「チワワ」「柴犬」はすべて「犬」ですね。

このとき、「犬」は上位語、「プードル」「チワワ」「柴犬」は下位語になります。

なお、上位語は下位語の意味範囲を覆うような形なので、上位語・下位語の関係を包摂関係( hyponymy)といったりします。

 

上位語・下位語の概念は相対的です。

「犬」は、「動物」に対しては下位語ですが、「チワワ」に対しては上位語になります。

 

上記の図では3つの階層しか示していませんが、「動物」の下の階層に、「爬虫類」「哺乳類」「両生類」などの階層を入れることも可能です。

「犬」の階層の下に「大型犬」「小型犬」の階層を入れることもできますし、「チワワ」の階層の下にさらに「ロングコートチワワ」「スムースコートチワワ」を設けることもできます。

 

名詞以外の品詞での上限関係

上位語・下位語と言った時は、名詞の例が出ることが多いと思います。

ただ、動詞など、名詞以外の品詞でも上下関係は見受けられます。

例えば、以下の動詞を見てください。

  • 歩く
  • 散歩する、闊歩する、散策する、うろつく、ふらつく

 

「歩く」というのはより幅広い概念を網羅すると考えられます。

「散歩する」「うろつく」「闊歩する」などはどのように歩くかという、歩き方を示しているので、より細かい概念を示していると考えられます。

 

なので、「歩く」は上位語で、「散歩する」「闊歩する」「散策する」「うろつく」「ふらつく」などは下位語だと言われます。

なお、英語では、動詞の上下関係のことをtroponymy、「散歩する」「闊歩する」「散策する」「うろつく」「ふらつく」などの動詞の下位語のことをtroponymと呼んだりします。

 

日本語の場合は、和語が上位語になることが多いようですね。

 

なぜこの上位語・下位語が役に立つのか

まず、このような上下関係をみることで、その言語がどのようなカテゴリー分けをしているか、しいてはどのような語彙体系をしているかを知る手掛かりになります。

カテゴリー分けの仕方は、言語によって違うことがよくあるので、言語間の違いを観察するのも面白いです。

 

また、人がコミュニケーションをするときに、どのようにこれらの上下関係を活用しているのかを知ることで、コミュニケーション戦略や認知能力について知ることもできます。

例えば「プードル」ということばがでてこなかったときに、その上位語である「犬」で置き換えて話すことがよくあります。

 

ちなみに、人間は必要に応じて柔軟にこのカテゴリー分けを伸縮ことができることも認知言語学ではわかっています。

つまり、上位語を下位語で示したり、下位語を上位語で示したりすることもあります(一般に「シネクドキ」といわれます。ご興味のある方は「シネクドキ(堤喩)とメトノミー(換喩)の用語について」もご覧ください)

 

さらに、子どもがどのようにこのような上下関係を理解していくのかを調べることで、言語習得の過程を知る手がかりにもなります。

 

ご興味のある方は

上位語と下位語について簡単に紹介しました。

 

ご興味のある方には、以下のような本もあります。

 

  • Cruse, A. (2011). Meaning in language: An introduction to semantics and pragmatics. 3rd edition.

今回紹介した上位語・下位語は意味論(semantics)で扱われることが多い用語ですが、Cruseの本はその意味論(と語用論)の入門書です。

 

Cruseの本は和訳も出版されているようです。

  • アラン・クルーズ(著)・片岡宏仁(訳)(2012)言語における意味ー意味論と語用論. 東京電機大学出版局. 

 

 

  • 今井 むつみ, 針生 悦子(2014)言葉をおぼえるしくみ ―母語から外国語まで. 筑摩書房

子どもがどう言葉を覚えていくのかについて、認知心理学の観点から書いた本です。子どもがどのように上下関係を含めた語彙体系を覚えていくかについても触れられています。

こちらは一般向けの本なので読みやすいと思います。