ロング(Long)のインタラクション仮説(Interaction hypothesis)について

インタラクション仮説とは

この記事ではマイケル・ロング(Michael Long)のインタラクション仮説について紹介します。

 

なお、インタラクション仮説を理解するために、1970年~1980年頃に影響力のあったクラッシェンはインプット仮説についても簡単に紹介します。

インプット仮説というのは、言語を習得するためには、理解可能なインプット(comprehensive input)を与えることの重要性を述べたものです。

現段階で学習者が理解できるものを「i」と捉えるなら、それよりわずかに高いレベル、つまり「i + 1」のインプットを与えることで習得につながるとクラシェンは考えました。

例えば、「私は学生です」という文型を習得した学生がいたとしたら、次に「私は日本語の学生です」と「日本語の」をつけた文を提示して、既習のものに少しずつ足していくイメージです。

「私は学生です」という文型しか習得していない人に、「学生は毎日欠かさず勉強に励んでください」なんて日本語で畳みかけても理解できません。その学習者が理解可能な形のインプットをすることが重要ということです。

 

ロングは、そのインプットの大切さを認識しつつ、1980年代にインタラクションの大切さも述べて「インタラクション仮説」を提唱し、1996年には修正版のインタラクション仮説を発表しました。

(日本語表記では「インターアクション仮説」と言われることもあります)

 

ロング(1980/1981/1983)のインタラクション仮説

1980年代頃までの第二言語習得では、学習者の頭の中で起こるプロセスについて着目することが多かったです。

ただ、言語学習というのはまったく一人でやるものではなく、クラスメート、友達や教師との関わりの中で起こるもので、ロングはその相互交流(インタラクション)にも目を向けるべきと考えました。

 

ロングは1980年に「Input, interaction, and second-language acquisition」という博士論文で、母語話者同士の会話と、母語話者と非母語話者の会話を比較しました。

(1981年/1983年に博士論文の内容に関する論文も学術誌等で発表しています)

 

その結果、母語話者と非母語話者の会話だと、お互いがどういう意図で話しているかを明らかにするために以下のようなことがよく生じていたことがわかりました。

  • 明確化要求(clarification request):相手の発話が不明確だったり、理解できなかったときに明確に言うよう要求する。
  • 確認チェック(confirmation check):自分の理解が正しいかどうか相手に確認する
  • 理解度チェック(comprehension check):自分の意図を相手が正しく受け取っているかを確認する
  • 反復要求(repetition request):もう一度いうようお願いする。

 

ロングは、会話に参加している者同士が、相手の意図を理解するために行う上記のようなやり取りのプロセスのことを意味交渉(negotiation of meaning)と呼びました。

そして、このような会話の中で交渉が起きることで、相手のインプットが理解可能なものになると考えました。

 

クラッシェンのインプット仮説というのは、あくまで母語話者がインプットを調整して、学習者のレベルに合わせたものを提供するというものでした。

 

ロングは、そうではなく、学習者が積極的に意味交渉に参加することが習得の促進に大切と考えました。

つまり、ロングは、学習者がインタラクションに参加することで、相手の意図を理解するために意味交渉が生まれ、意味交渉が生まれることでインプットが理解可能になり、それが習得につながると考えたのです。

簡単に書くと以下の感じです。

やり取りを通したインプットの修正(interactional modification)

理解可能なインプット

習得

 

インタラクションの大切さを述べているのでインタラクション仮説と言われています。

 

ロング(1996)のインタラクション仮説

ロングは1996年に「The role of the linguistic environment in second language acquisition」という論文で、インタラクション仮説を修正します。

インタラクションの大切さを述べることには変わりはないのですが、この論文では、意味交渉インタラクションにおける訂正フィードバックや、気づき、そしてアウトプットの役割にさらに着目しました。

 

学習している言語で、自分が言いたいことをうまく言えないときに、相手に「え?どういうこと?」とか「〇〇という意味?」など言われたことはあると思います。

こういう風に言われると、「あ、自分の言い方は伝わらないんだ」と気づき、言い直したり、違う言い方をすることになると思います。

 

言語のクラスでは、リキャストといって、学習者の間違えた文を、正しい文にして言い直すこともよくあります。

学習者が「この本はいいと思う」と言った時に、教師が「『いいと思う』ね」と言って正しい文で言い直すことなどがその例です。

 

このように、意味交渉の中で訂正フィードバックを受けることで、自分の間違えているところに気づき自分の発話(アウトプット)を修正でき、それが言語学習にプラスの影響を与えると考えました。

 

(ロングのインタラクション仮説というと、こちらの1996年のものが引用されることが多いと思います。)

 

ご興味のある方は

ロングのインタラクション仮説について簡単に紹介しました。

ロングのインタラクション仮説(および一連の研究)は第二言語習得・言語教育に大きな影響を及ぼしました。

第二言語習得では、インタラクション仮説の検証に関する研究、インタラクションを生み出すタスクとは何かというタスク関連の研究、フィードバック研究など多数なされています。

また、タスクベースの教授法など、学習者間のインタラクションを促すような教授法もあります。これもロングの影響を強く受けています。

 

  • Doughty, Catherine J., and Michael H. Long, eds. The handbook of second language acquisition. Vol. 27. John Wiley & Sons, 2008.

 

ご関心のある方はよろしければ以下の記事もご覧ください。