「べく」と「ために」の違いについて

「~べく」と「~ために」

今回は、この「べく」と「~ために」の違いを説明します。

「~べく」と「~ために」は、以下のように使われます。

  • 次の試合に勝つために、毎日練習をしている。
  • 次の試合に勝つべく、毎日練習をしている。

どちらも日本語で使う表現だと思いますが、違いがわかるでしょうか?

 

なお、「~ために」は「大雨のために電車が止まった」など「原因」をあらわすものや、「田中さんのために手紙を書いた」など「恩恵」を表すものもあります。

ただ、今回は「試合に勝つために、毎日練習している」などの「目的」を表す「ために」に限ります。

 

違い①:「べく」のほうが硬い

まず、お気づきの方も多いと思いますが、「べく」のほうが表現として硬いですね。

「べく」は、くだけた日常会話ではあまり使われない表現だと思います。

 

書きことばや、改まった場面(挨拶やスピーチなど)で使われることが多いと思います。

 

例えば、2021年に開催された東京オリンピック前に、小池都知事が記者会見で、以下のようにいったそうです。

小池都知事 “安全・安心な大会にすべく準備進めていく”(2021年7月9日 NHK News Web)(アクセス日:2021年11月16日)

 

また、2021年11月10日の記者会見で、衆院選を受けて岸田文雄首相は、第2次内閣の取り組みについて以下のようにいっています。

政治空白は一刻も許されない。スピード感を政策実行に発揮すべく全力を挙げていく(2021年11月11日 Jiji.com)(アクセス日:2021年11月16日)

 

ニュースを検索したら、政治家の発言で「すべく」を使った表現が複数でてきました。

 

違い②:「べく」のほうが意志が強い

「べく」のほうが「ために」よりも強い意志を表すとも言われます。

「べく」は、「~するのが当然だ」「~しなければならない」という意味の「べし」の連用形です。

(ちなみに、「~すべきだ」の「べき」は、「べし」の連体形ですね)

 

この「~すべきだ」のニュアンスと似ていて、前件には主に「義務や方針として、しなければならないと決まっていること」(「“生きた”例文で学ぶ 日本語表現文型辞典」p. 311)が取り上げられます。

 

最初の例を見てみましょう。

  • 次の試合に勝つために、毎日練習をしている。
  • 次の試合に勝つべく、毎日練習をしている。

 

「勝つべく」というときは、「次の試合には勝たなければならないから、そのために」みたいなニュアンスになるのかと思います。

「ために」より強い意志を表すとよく言われるのは、「~しなければならない」という意味の「べし」の性質が関係しているかもしれません。

 

違い③:「べく」の後件の制約

「べく」の後の文に、依頼や命令、勧誘などの働きかけを表す文は使いづらいと言われています(参考:「どんなときどう使う 日本語表現文型辞典 」p. 356)

  • 〇病気を治すために、この薬は絶対飲みなさい。
  • ?病気を治すべく、この薬は絶対飲みなさい。

 

  • 〇自分の身を守るために、シートベルトをしてください。
  • ?自分の身を守るべく、シートベルトをしてください。

「~なさい」といった命令、「~してください」というような依頼、「~ませんか」「~ましょう」などの勧誘といった働きかけの文は、「べく」の後にくると不自然と感じる人もいるのではないでしょうか。

 

ただ、インターネットで調べてみると「唯一無二の人材となるべく、一緒に働いてみませんか?」や「地域医療に貢献すべく、一緒に頑張りましょう」など、働きかけの文が「べく」と使われているものも複数ありました。

人や文脈によって判断が分かれるところは多々あると思います。

 

まとめ

「べし」と「ために」の違いについて説明しました。

まとめると、以下のような傾向があると言えると思います。

  • 「ために」のほうが汎用性が高い
  • 「べく」のほうが硬い表現
  • 「べく」のほうが強い意志を表す
  • 「べく」は後件に制約がある

何かのお役に立てれば幸いです。