「~べく」と「~ために」
今回は、この「べく」と「~ために」の違いを説明します。
「~べく」と「~ために」は、以下のように使われます。
- 次の試合に勝つために、毎日練習をしている。
- 次の試合に勝つべく、毎日練習をしている。
どちらも日本語で使う表現だと思いますが、違いがわかるでしょうか?
なお、「~ために」は「大雨のために電車が止まった」など「原因」をあらわすものや、「田中さんのために手紙を書いた」など「恩恵」を表すものもあります。
ただ、今回は「試合に勝つために、毎日練習している」などの「目的」を表す「ために」に限ります。
違い①:「べく」のほうが硬い
まず、お気づきの方も多いと思いますが、「べく」のほうが表現として硬いですね。
「べく」は、くだけた日常会話ではあまり使われない表現だと思います。
書きことばや、改まった場面(挨拶やスピーチなど)で使われることが多いと思います。
例えば、2021年に開催された東京オリンピック前に、小池都知事が記者会見で、以下のようにいったそうです。
また、2021年11月10日の記者会見で、衆院選を受けて岸田文雄首相は、第2次内閣の取り組みについて以下のようにいっています。
ニュースを検索したら、政治家の発言で「すべく」を使った表現が複数でてきました。
違い②:「べく」のほうが意志が強い
「べく」のほうが「ために」よりも強い意志を表すとも言われます。
「べく」は、「~するのが当然だ」「~しなければならない」という意味の「べし」の連用形です。
(ちなみに、「~すべきだ」の「べき」は、「べし」の連体形ですね)
この「~すべきだ」のニュアンスと似ていて、前件には主に「義務や方針として、しなければならないと決まっていること」(「“生きた”例文で学ぶ 日本語表現文型辞典」p. 311)が取り上げられます。
最初の例を見てみましょう。
- 次の試合に勝つために、毎日練習をしている。
- 次の試合に勝つべく、毎日練習をしている。
「勝つべく」というときは、「次の試合には勝たなければならないから、そのために」みたいなニュアンスになるのかと思います。
「ために」より強い意志を表すとよく言われるのは、「~しなければならない」という意味の「べし」の性質が関係しているかもしれません。
違い③:「べく」の後件の制約
「べく」の後の文に、依頼や命令、勧誘などの働きかけを表す文は使いづらいと言われています(参考:「どんなときどう使う 日本語表現文型辞典 」p. 356)
- 〇病気を治すために、この薬は絶対飲みなさい。
- ?病気を治すべく、この薬は絶対飲みなさい。
- 〇自分の身を守るために、シートベルトをしてください。
- ?自分の身を守るべく、シートベルトをしてください。
「~なさい」といった命令、「~してください」というような依頼、「~ませんか」「~ましょう」などの勧誘といった働きかけの文は、「べく」の後にくると不自然と感じる人もいるのではないでしょうか。
ただ、インターネットで調べてみると「唯一無二の人材となるべく、一緒に働いてみませんか?」や「地域医療に貢献すべく、一緒に頑張りましょう」など、働きかけの文が「べく」と使われているものも複数ありました。
人や文脈によって判断が分かれるところは多々あると思います。
まとめ
「べし」と「ために」の違いについて説明しました。
まとめると、以下のような傾向があると言えると思います。
- 「ために」のほうが汎用性が高い
- 「べく」のほうが硬い表現
- 「べく」のほうが強い意志を表す
- 「べく」は後件に制約がある
何かのお役に立てれば幸いです。