トータル・フィジカル・リスポンス(TPR:Total Physical Response)とは
トータル・フィジカル・リスポンス(TPR:Total Physical Response)は、ジェイムス・アッシャー(Asher, James J.)が提唱した教授法です。
1970年代に言語教育では様々な教授法が提唱されますが、TPRも1970年代から盛んになった教授法の一つです。
この教授法は、幼児が第一言語を習得する過程の研究をもとに生まれました。
Asherは、幼児は、発話ができるようになる前に、かなりの長い時間、親などが何を言っているか理解しようとし、聞いてからそれに対して身体で反応している事実に着目しました。
そして、第二言語を学ぶ際も、第一言語と同じプロセスをなぞるのがいいと考えました。
なので、TPRでは、聴解を重視していて、聞いてわかるようになるまで、無理に発話をさせることはありません。また、TPRでは媒介語は使いません。
また、TPRのもう一つの特徴は「total PHYSICAL response」とあるとおり、身体を使って学ぶことです。
TPRのやり方
TPRでは、教師の指示に対し、学生が自分の体を動かして反応するというのが基本になっています。
TPRでは、「Walk!Stop!」など単純な文で命令し、それに従って学生は動きます。
単純な命令が終わった後は、「Walk to the door」「Walk slowly to the door」など少し複雑な文で命令していきます。
語学のクラスだと、教師の発話を学生が繰り返して言うことはよくありますが、TPRは、聴解を重視しているので、学生に無理に発話はさせません。
Asher et al (1974)によると、大体10時間ぐらいこのような練習をしたあとに、学生が教師役となり、命令をする側になります。ただ、これも無理に強いることはせず、学生の意志を尊重するそうです。
TPRのやり方の動画がありましたので、ご興味のある方はご覧ください。
- Total Physical Response (TPR) – Teacher Training film no. 8. (2010) Cambridge University Press ELT (アクセス日 2021年11月4日)
TPRの特徴
Asher(1972)は以下のようにTPRの特徴を挙げています。
- 発話より先に言語の理解をしなければいけない。
- 命令に答えて学生が体を動かすことにより、理解と定着がみられる。特に、命令形を使うことで、体を使っての理解を深められる。
- 大人の言語学習は、子どもが第一言語を学ぶのと同じ方法で進めることができる。
なお、AsherがTPRについて説明した「Learning Another Language through Actions」は第7版まででているようです。
TPRのメリットと問題点
メリット
メリットは、まず聴解のみに集中し、発話を強いられないので、学生にあまりストレスがかからないことが挙げられます。
また、体を動かすことで、脳が活性化されるともいわれています。
問題点
一部のクラスでこのような活動を入れることはできると思うのですが、どうやってTPRで言語能力を向上できるのかが不透明なことが挙げられます。
TPRで扱う命令の場面というのは限られた場面です。「郵便局に行く」「レストランでご飯を食べる」「買い物する」など、普段の日常生活の言語使用場面で使えるような言語能力をどう伸ばしていくのかがわかりづらいという点があります。
抽象的な話をする能力を育む際にも、この方法は限界があるのではと言われています。
また、言語の正確さをどう伸ばすのかという点についても、不透明なところが多いです。
さらに、子どもだといいですが、大人の中には、このような方法で学ぶことに抵抗がある人もいるかもしれません。
ご興味のある方は
TPRについて簡単に紹介しました。
現在はTPRは教授法というより、活動の一部として、初級のクラスなどで取り入れられることが多いようですね。
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