バイラム(Byram)の異文化間コミュニケーション能力について

バイラム(Byram)の異文化間コミュニケーション能力(Intercultural communication competence)

この記事では、バイラム(Michael Byram)が1997年の以下の本で提唱している異文化間コミュニケーション能力(Intercultural communication competence)について紹介します。

1997年で古いのですが、バイラムの異文化間コミュニケーション能力のモデルで提唱された概念は、大きな影響力があり、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)の複言語・複文化能力に形を変えて引き継がれています。

 

以下、異文化間コミュニケーション能力の要素について紹介したいと思いますが、前提になるのは、昨日紹介したMcConachy同様、Byramも言語教育は情報の伝達にとどまらないと考えていることです。

さらに、ここはヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)にも引き継がれているポイントなのですが、言語学習の目標として「intercultural speaker」を育てることをあげています。

Byramにとっては、外国語で情報をうまく伝達できただけでは、やり取りがうまくいったとは考えません。それだけでなく、どう人間関係を構築し、維持できたかも重要だと考えています(1997, p. 7)。

 

さらに、Byram(1997)は「異文化能力」と「異文化間コミュニケーション能力」を分けて考えています。

「異文化間能力」は、自分の言語で、他の国・文化の人とやりとりする一般的能力のことで、「異文化間コミュニケーション能力」というのは、外国語で、他の国・文化の人とやりとりする能力のことです。

自分の言語でコミュニケーションをとるか、外国語でコミュニケーションをとるかで差異をつけているようですね。

 

では、後者の異文化間コミュニケーション能力について、一体それがどんな要素で構成されるのかという点をもう少し詳しく説明します。

 

異文化間コミュニケーション能力の要素

5つの要素

バイラムは、異文化間コミュニケーションの要素として以下の5つを挙げています(1997, p. 49-53)。

(和訳は私が概要だけ記載したものです。正確な訳ではありませんので、詳細は原文をご覧ください。)

 

それぞれの要素は、「attitude(savoir être))のように、英語だけでなく、フランス語も併記されています。

「savoir」というのはフランス語の「知っている」「わかる」というような意味ですね。

 

  1. 態度(Attitudes (savoir être)): 好奇心、オープンさ、判断を保留するなどの態度
  2. 知識(Knowledge (savoirs)):自文化・他文化の社会文化的知識
  3. 解釈・関連付けのスキル(Skills of interpreting and relating (savoir comprendre)):他文化を解釈し、説明し、自文化と結び付ける力
  4. 発見・やり取りのスキル(Skills of discovery and interaction (savoir faire)):文化等の新たな知識を得る力、実際のコミュニケーションの中で自身の知識・態度等を使える力
  5. 批判的文化アウェアネス(Critical cultural awareness (savoir s’engager)):自文化・他文化の慣習等を批判的に評価する力

 

⑤批判的文化アウェアネスは面白いですね。フランス語では「savoir s’engager」になっており「参加できる」というような意味になっています。

フランス語だと何かに結構主体的に参加している感じがありますが、英語だとそのニュアンスがあまり伝わらないように思います。

Byram (2012)は、批判的文化アウェアネスというのは、ただの知的な活動にとどまらず、自分・他者のコミュニティにおいて政治・社会に批判的に関わっていくために重要な役割を果たすものといっています。

 

ちなみに、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)の第5章1節(2001, p. 101-108)では、「(言語使用者/学習者の)一般的能力」を以下の4つに分けて説明しています。

  • savoir(declarative knowledge)
  • savoir-faire (skills of know-how)
  • savoir-être(’existential’ competence)
  • savoir-apprendre(ability to learn)

バイラムの提示した「savoir」という概念を使っており、バイラムの異文化間コミュニケーション能力モデルが大きく影響を与えていることがわかります。

 

要素の間の関係性

また上記5つの関係性は以下のようになるそうです(Byram 1999, p. 33)。

解釈・関連付けのスキル(Skills of interpreting and relating (savoir comprendre))
知識(Knowledge (savoirs))教育
批判的文化アウェアネス(Critical cultural awareness (savoir s’engager))
態度(Attitudes (savoir être))
発見・やり取りのスキル(Skills of discovery and interaction (savoir faire))

 

批判的文化アウェアネスが真ん中に置かれています。また、批判的文化アウェアネスは教育で根源的な役割を果たすとバイラムは考えています。

右と左にある「態度」と「知識」は人間関係構築・維持のための前提条件のようなものだそうです。また、「態度」と「知識」は、異文化間コミュニケーションのプロセスの中で修正されていくものです。

上と下にある、「解釈・関連付けのスキル」と「発見・やり取りのスキル」は、実際に異文化間コミュニケーションするときに、動員が必要になる要素です。

まとめ&ご興味のある方は

バイラムの異文化間コミュニケーション能力について簡単に説明しました。

 

また、上記の本ではないのですが、バイラムの本の中には和訳されているものもあるようです。

和訳では「相互文化的能力」としていますね。

「intercultural」が日本語では「異文化間」と訳されることが多いのですが、「intercultural」というのは「inter-(間)」と「cultural(文化的)」を組み合わせた語で、「異」という要素はないので、実は英語と日本語訳で乖離がありますね。

実は、このウェブサイトでも「intercultural」を訳すときに、文化間と書いたり、異文化間としたりで統一されていません。この和訳にある「相互文化」という訳はいいのではと思いました。

 

バイラムについてはいくつか過去にも紹介したので、ご興味のある方はよろしければそちらもご覧ください。