McConachy (2018) 言語使用のintercultural perspectiveの視点の育成
現在、この本を読んでいるので、気になったところを備忘録として残しておきます。
- McConachy, Troy (2018) Developing Intercultural Perspectives on Language Use: Exploring Pragmatics and Culture in Foreign Language Learning (Languages for Intercultural Communication and Education Book 33) (English Edition). Multilingual Matters
言語学習は言語スキルでは不十分
この本では、外国語を使ってコミュニケーションし、他者と関係を築きあげることは、言語スキルだけでは十分でなく、それ以上のことが必要になるという立場をとっています。
普段、人と話すとき、それぞれの人がその人の経験や前提条件、価値観、規範に基づいて話しています。
相手との価値観のずれやそもそもの前提条件の違い、何が適切な行動かという規範の違いによって、うまく伝わらなかった、または相手の意図を誤解してしまった、ということはよくあると思います。
特に文化・言語的背景が異なるときは、この前提条件、価値観、規範の違いが大きくなると考えられます。
言語スキルのみならず、様々な規範、前提条件、価値観が、言語の使用や解釈に影響を及ぼしていることを意識することが必要で、この点について「言語使用における文化間の視点(intercultural perspectives on language use)」という概念をMcConachyは提唱しています。
CLTの問題点
また、こういう文化間の視点については、コミュニカティブ・ランゲージ・ティーチング(CLT)に基づく言語学習で重視されていないことが多いともMcConarkyは指摘しています。
CLTはハイムズのコミュニケーション能力の概念に大きく影響を受けています。
ハイムズのコミュニケーションの能力では、「Rules of use」「rules of discourse」というような、文化や語用論的要素が含まれていたにもかかわらず、CLTではインフォメーションギャップ活動など、情報の伝達に重きを置くことが多いとMcConarchyは言っています。
ちなみに、CLTが「情報伝達」を重視していることについては、Block (2003)や Kramsch (2009)などの他の研究者も批判していますね(ご興味のある方は「コミュニカティブ・アプローチの特徴とその批判について」もご覧ください)。
McConarchyは、言語学習で「言語使用における文化間の視点(intercultural perspectives on language use)」を取り入れることが重要といっています。
言語使用における文化間の視点(intercultural perspectives on language use)
なお、「言語使用における文化間視点」で重視しているのは、振り返り(reflections)やメタ語用論的意識(meta-pragmatic awareness)です。
まず、自分自身の価値観・前提・規範などを振り返ることが必要ということですね。
私自身の例ですが、英語圏で働き始めたときに、自分より30も上の同僚に対して「Hi Tom」のような感じで、ファーストネームで話しかけ、友達のように話すコミュニケーションスタイルを若干不思議に思ったこともありました。
この場合、私自身が、日本語で話しているとき、30も上の同僚だったら、親しくなったとしても、一定の丁寧さは維持する(「ですます」で基本は話すなど)という前提があったからこそ、スタイルの違いに抵抗を覚えたのだと思います。
メタ語用論的意識というのは、色々な定義がありますが、McConarchyは、やり取りをする中で様々な理解の方法の可能性があることを認識しつつも、様々な場面で自身・他者の言語使用について振り返り、分析することといっています。
また、言語学習というのは、自身の価値観・前提・規範について意識しながら、第二言語使用のコンテクストの中で自分でどう新たにコミュニケーションしていくのかを探り、必要に応じて修正していくものだといっていました。
上記の上司に対するコミュニケーションスタイルの例でいうと、同じ英語圏と一口でいっても多様なので、職場や話している相手によっては、上司に友達のように話しかけるのをマイナスに取られる可能性もあるかもしれません。
こういった多様な可能性を認識しつつ、その場その場で自分・相手の言語使用を分析しながら、自分のコミュニケーションスタイルを調整していくということだと思いました。
ご興味のある方は
McConachyは長年日本で教鞭をとっていたこともあり、以下のような教科書も出版しています。
↑各ユニットは文化、言語と思考、コミュニケーション・スタイルなどについての読み物と、読み物の語彙や理解を確認する活動、ディスカッショントピックや、作文の練習があります。
挿入されている写真が本の趣旨とあまり合わないような気がしてちょっと気になりますが、一つ一つの内容はコンパクトにまとめられているので、大学の学部生の英語のクラスで異文化コミュニケーションを扱いたいときに便利だと思います。