語と語を組み合わせるときに、語の一部の音が変わることがあります。
(ご興味のある方は「日本語の変音現象(連濁・転音・音便・音韻添加・連声・半濁音化)について」をご覧ください)
この記事では、この変音現象のうちの音便について詳しく紹介します。
音便
音便は、前の語の母音が促音「ッ」や撥音「ン」、「イ」の音や「ウ」の音に変わることをいいます。
以下のような例があります。
- 埼(さき)+ 玉(たま)→ 埼玉(さいたま)(「き」→「い」)
- とり + かかる → とっかかる(「り」→「っ」)
- ぶつ + なぐる → ぶんなぐる(「つ」→「ん」)
また、音便といったときには、下記のような、動詞・形容詞の活用に関わるものを特に指していうことも多いです。
- 遊び + て → 遊んで(「び」→「ん」)
- 立ち + て → 立って(「ち」→「っ」)
- おはやく + ございます → おはようございます(「く」→「う」)
また、音便はどの音に変わるかによって、イ音便、ウ音便、促音(そくおん)便、撥音(はつおん)便の4つに分類されます。
なお、音便が見られるようになるのは平安時代以降ですが、その中でも早く表記上で見られたのは、ほとんどがイ音便かウ音便だそうです(衣畑 2019, p. 60)。
撥音便が表記上に反映されるのは11世紀半ば頃、促音便は13世紀ごろだと言われています(衣畑 2019, p. 60)。
イ音便
イ音便とは、語中・語尾の音が「イ」の音になることです。
現代日本語の動詞の活用では、カ行・ガ行の五段活用の動詞(「き」「ぎ」の音)が、「~た」「~て」に接続するときに「イ」の音になります。
- 書き +て → かいて
- 聞き +た → きいた
- 泳ぎ +て → およいで
子音を脱落させたほうが音が減って発音しやすくなるので、経済的ということですね。
「り」の音の「r」が脱落して「イ」になることもあります。
- おっしゃり +ます → おっしゃいます
- くださり + ます → くださいます
- いらっしゃり+ます → いらっしゃいます
ウ音便
ウ音便とは、語中・語尾の音が「ウ」の音になることです。
- おはやく + ございます → おはようございます
- ありがたく + ございます → ありがとうございます
- うれしく + 存じます → うれしゅう存じます
現代日本語だと、「ございます」「存じます」の前の形容詞が変わることが多いですね。
促音(そくおん)便
促音便とは、語中・語尾の音が促音(「ッ」の音)になることです。
現代日本語の動詞の活用では、タ行・ラ行・ワ行の五段活用の動詞(「ち」「り」「い」の音)が、「~た」「~て」と接続するときに「ッ」の音になります。
- 打ち + て → 打って
- 帰り + た → 帰った
- 買い + て → 買って
撥音(はつおん)便
撥音便とは、語中・語尾の音が撥音(「ン」の音)になることです。
現代日本語の動詞の活用では、マ行・バ行・ナ行の五段活用の動詞(「み」「び」「に」の音)が、「~た」「~て」と接続するときに「ン」の音になります。
- 読み + て → よんだ
- 遊び + た → あそんだ
- 死に + て → しんで
また、接続される「た」や「て」の音も濁音化して「だ」や「で」になりますね。
テ形の習得は大変
上記に述べた通り、五段動詞の動詞の活用にはイ音便・促音便・撥音便がでてきます。
初級の日本語学習者を悩ませるポイントの一つに「テ形」の習得があるのですが、その理由に音便が多いに関係しています。
古典文法だったら「書きます」→「書きて」、「帰ります」→「帰りて」、「読みます」→「読みて」と、「て」をつければいいだけだったかもしれません。
ただ、現代日本語の文法だったら、「書きます」→「書いて」(イ音便)、「帰ります」→「帰って」(促音便)、「読みます」→「読んで」(撥音便)と音が変音しています。
この音便を覚えるために、「いちりって にみびんで」などの歌詞ではじまる「テ形の歌」を歌うなどとして、かなりの労力を費やして学んでいます。
*ちなみに「いちりって」というのは促音便のことで、「買います」「待ちます」「帰ります」など、「い」「ち」「り」の場合は「って」と促音化するという意味です。
「にみび んで」は撥音便のことで、「死にます」「読みます」「遊びます」など、「に」「み」「び」の場合は「んで」と撥音化になるという意味です。
Youtubeで「テ形の歌」など検索すると、いろいろな曲に合わせた、テ形を覚えるための歌が出てくると思います。
まとめ&興味のある方は
音便(イ音便・ウ音便・促音便・撥音便)について説明しました。
促音便や撥音便は、日本語における促音(「ツ」の音)と撥音(「ン」の音)のに深くかかわっていると言われています。
もしご興味のある方は、以下の本などに詳しいと思います。
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