さ入れことばとは?
さ入れことばは、五段活用動詞の使役形の活用で、「せる」のところが「させる」になって、「さ」が入ることを言います。
普通、五段活用動詞の使役形は以下のように活用します。
- 行く ⇒ 行かせる
- 読む ⇒ 読ませる
- 遊ぶ ⇒ 遊ばせる
- 走る ⇒ 走らせる
- 行く ⇒ 行かさせる
- 読む ⇒ 読まさせる
- 遊ぶ ⇒ 遊ばさせる
- 走る ⇒ 走らさせる
特に改まった場面での出現が多く、その中でも「~させていただく」の形でさ入れが発生することが多いです。
- 読ませていただく → (さ入れ) 読まさせていただく
- 書かせていただく → (さ入れ) 書かさせていただく
- 待たせていただく → (さ入れ) 待たさせていただく
さ入れがおこる理由
さ入れが起こる理由として以下の2つの可能性が指摘されています。
「せる」と「させる」を混同
日本語は五段活用動詞と、上一段・下一段活用の一段活用動詞で活用が変わります。
(ちなみに、日本語教育では五段活用動詞をGroup Iや「u-verbs」、上一段・下一段活用動詞をGroup IIや「ru-verbs」といったりします。)
五段活用動詞 | 一段活用動詞 | |
使役 | 書かせる(-aseru) | 見させる(-saseru) |
一段活用動詞は「させる」をつけることで使役形にすることができますが、五段動詞は「せる」をつけます。
ただ、一段活用動詞の活用と混同した結果、五段活用動詞でも一段動詞と同様、「させる」が使われている可能性があります。
「させていただく」の乱用
2021年3月に「させていただく」の語用論—人はなぜ使いたくなるのか」という本も発売されましたが、「させていただく」という表現の使用が特に若者の間で増えています。
さ入れ言葉は改まった場面で多く出現すると言われており、特に「させていただく」の形でよく見られます。
このことから、「させていただく」というのがセットフレーズのように、五段活用動詞にも使われているのではともいわれています。
さ入れことばの現状
さ入れことばの現状について知るための調査としては、2015年度(平成27年度)の文化庁の「国語に関する世論調査」があります(アクセス日:2021年6月5日)。
この調査で、5つの動詞について、以下の文で、さ入れことばの使用について聞いたところ、下記の結果になりました。
(「どちらも使う」/「わからない」の回答をこの記事では省略しているので、全体で100%にはなりません)
さ入れことばでないほうを普通に使うと回答した人の割合 | さ入れことばを使うと回答した人の割合 | |
休む | 明日は休ませていただきます (79.6%) | 明日は休まさせていただきます (16.8%) |
帰る | 今日はこれで帰らせてください (80.3%) | 今日はこれで帰らさせてください (16.9%) |
伺う | 担当の者を伺わせます (75.5%) | 担当の者を伺わさせます(20.7%) |
見せる | 絵を見せてください (59.6%) | 絵を見させてください(32.7 %) |
読む | 私が読ませていただきます(71.9%) | 私が読まさせていただきます ( 23.2%) |
動詞の種類によっても違うようですが、さ入れ言葉を普通に使うと回答した人は16.8~32.7%で少数派なので、ら抜きことばほどは市民権は得ていないようですね。
なお、「見せる」のさ入れことばである「見させてください」は回答率が高い(32.7%)です。
ただ、「見る」の使役形も「見させる」になることから、「見せる」の「さ入れ言葉」ではなく、「見る」の使役形として判断した人がいる可能性もあります。
もっとご興味のある方は
さ入れことばについてまとめました。
「させていただく」については2021年1月に以下の本が出版されています。
- 椎名美智(2021)「させていただく」の語用論—人はなぜ使いたくなるのか。ひつじ書房
さ入れことばと共に、よく日本語の揺れとして取り上げられるのが「ら抜きことば」です。
こちらについて興味のある方は、よろしければ以下の記事もお読みください。