ティーチャートークとフォーリナートーク
フォーリナートーク(foreigner talk)は、母語話者が非母語話者に話しかけるときの修正・単純化された言語(ライトバウン・スパダ 2014, p. 239)です。
ティーチャートーク(teacher talk)は、教室で教師が学習者に話すときのことばのことです。
なお、フォーリナートークの特殊なカテゴリーを「ティーチャートーク」と捉えることが多いようです(ライトバウン・スパダ 2014, p. 239)。
フォーリナートーク研究の契機
大人が乳幼児に向かって話しかける際に、意識しているか否かに関わらず、自然に声が高くなったり、独特の抑揚で話すことが観察されています。
この乳幼児向けに発せられる言語は、「motherese(マザリーズ)」、「baby talk」、「caretaker speech」、「child-directed speech)などと呼ばれ、この言語の特徴や機能を調査する研究が行われました。
1970年頃から、母語話者が非母語話者に話しかける際にも、上記の「motherese(マザリーズ)」、「baby talk」、「caretaker speech」などと類似している点があると考えられ(Ferguson(1971))、フォーリナートークの研究が進められるようになりました。
なお、フォーリナートークは「修正・単純化した言語」という意味ですが、その背後には「修正されていない、標準で、通常の話し方」があることを前提にしています。
その「標準で通常の話し方」というのが母語話者同士の会話を前提にしており、学習者と母語話者との非対称な関係を構築するとして、批判もされています(Firth and Wagner, 1998) 。
ティーチャートークとフォーリナートークの共通点
Hatch (1983, Gass and Selinker 2008, p. 306で引用)によると、英語のフォーリナートークは以下のような特徴があるそうです。
- ゆっくり話す(はっきり発音する)
- 最後の子音までしっかり発音する
- 母音を小さく速く発音するケース(母音弱化)が少ない
- 縮約形が少ない
- ポーズが長い
- 語彙
- 高頻出語を使う(スラングが減る、イディオムが少ない)
- 代名詞が少ない
- 定義(はっきり定義する、説明や背景情報を付加する)
- ジェスチャーや絵を使う
- 統語(文法)
- 短くて簡単な文を使う
- トピックを文の最初にいう
- 繰り返しが多い
- 新情報は文の最後におく
- 学習者の間違った文を文法を正して反復する/修正する
- 学習者が途中で文を終えたら、その文を補う
- 談話
- 質問の中に答えを含める
- 付加疑問文(isn’t it?)などを使う
- 訂正する
語彙の制限や、短くて簡単な文の使用、話すスピードの調整、繰り返しなどは、言語を問わずフォーリナートーク全般でよく観察されるようですね。
こういった調整をすることにより、非母語話者が理解しやすくなるということかと思います。
上記の特徴は、特に初中級でのティーチャートークでよく見られる特徴だと考えられます。
ティーチャートーク特有の特徴
上記以外に、クラス内でのティーチャートーク特有の特徴として以下の点があげられています。
答えがわかっている質問をする
聞き手から情報を求めるためではなく、「display questions」という質問のための質問をすることが多いと言われています(Long & Sato, 1983)。
あらかじめ教師は答えをしっているのですが、練習のために質問するというものです。
IRFが多い
IRFというのはInitiation-Response-Feedbackの略です。
教師がまず質問、指示等を行い(initiation)、それに対して、学生が反応し(response)、そして学生の応答に対して教師がまたフィードバックするというものです。
ティーチャートークではこの流れで会話が行われることが多いと言われています。
上記のようなティーチャートークは、コミュニカティブなクラスではそぐわないため、コミュニカティブなクラスでは、display questionを減らしたり、学生に会話を主導させるなど、教師も対応を変える必要があるという指摘もあります(Thornbury 1999)
まとめ
フォーリナートーク(foreigner talk)は、母語話者が非母語話者に話しかけるときの修正・単純化された言語で、ティーチャートークは、教室で教師が学習者に話すときのことばでした。
なお、この前紹介した「やさしい日本語」はティーチャートークの特徴を活かそうとする取り組みでもあるそうです(柳田 2019, p. 91)。