オーディオリンガル・メソッドとコミュニカティブ・アプローチ
以下の記事でオーディオリンガル・メソッドとコミュニカティブ・アプローチの特徴と批判について紹介しました。
この2つはよく比較の対象になるので、比較してみました。
比較のまとめ
まとめると以下のようになります。
オーディオ・リンガル・メソッド | コミュニカティブ・アプローチ | ||
① | 基盤となる言語理論 |
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言語学習の目的 |
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② | 典型的なシラバス |
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③ | よくある教室活動 |
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重視するポイント |
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以下、①~③について簡単に説明します。
① 基盤となる言語理論・言語学習の目的
オーディオリンガル・メソッド
オーディオリンガル・メソッドは、言語には「構造(体系)」があり、言語の本質は「音声」であるという構造言語学の影響を大きく受けています。
この理論に基づき、オーディオリンガル・メソッドでは、この言語の構造を学ぶことを言語学習の大きな目的としています。
また、行動心理学も大きな影響を及ぼしています。行動心理学では、人に「刺激」を与え、人がその刺激に「反応」することによって、「習慣」が形成されると考えます。
オーディオリンガル・メソッドでは、言語学習においてもこの「刺激・反応」のプロセスを何度も反復し、新しい習慣を獲得することを目的としています。
コミュニカティブ・アプローチ
コミュニカティブ・アプローチに影響を及ぼしたのは、機能主義言語学という、言語の社会的機能に着目した理論です。
言語というのは「構造(体系)」だけでなく、コミュニケーションを通して相手との関係を構築するなど、様々な社会的機能があると考えるものです。
また、Dell Hymes(ハイムス)がコミュニケーション能力の大切さを唱えましたが、これも影響を及ぼしています。
コミュニカティブ・アプローチは様々な教授法の総称ともいわれていますが、総じて広義のコミュニケーション能力の育成を目指すことを目的としています。
② 典型的なシラバス
オーディオリンガル・メソッド
オーディオリンガル・メソッドでよく使用されるシラバスは、簡単な文型から難しい文型へと向かう文型積み上げ式のシラバスが多いです。
文法シラバスや構造シラバスとも呼ばれるものです(詳しくは「言語教育におけるシラバスとその種類について①:文法シラバス・構造シラバス」もご覧ください。)。
段階を踏んで言語の構造(体系)学んでいくというものですね。
コミュニカティブ・アプローチ
コミュニカティブ・アプローチは、概念シラバス・機能シラバスがよく使用されます。
概念シラバス(notional syllabus)とは、「時間」「量」「時間」「位置」など学習者が言語を使って表現すると考える意味や概念(notion)と、それに伴う語彙・構文をもとに構成されたシラバスです(岡崎・岡崎 1999, p. 287)。こちらは伝達したいメッセージ別に指導内容を決めるものです。
機能シラバスは、「挨拶する」「依頼する」「拒否する」「謝る」「注文する」「誘う」など、言語を使って行いたい行動別に指導内容を決めるものです(詳しくは「言語教育におけるシラバスとその種類について②:場面シラバス・機能シラバス」もご覧ください。)。こちらは言語を使って行いたい行動別に指導内容を提示するものです。
いずれも言語の構造ではなく、コミュニケーションができるようになることを重視して構成されています。
③ よくある活動/重視するポイント
オーディオリンガル・メソッド
オーディオリンガル・メソッドでは、パターンプラクティスという文型練習や、ミムメム練習という教師の発音を真似して繰り返すことで暗記するという活動がよく取り入れられます。
教師中心でクラスが展開され、音声を重視するため口頭練習が多いです。
ただ、口頭練習をする場合も、文脈はあまり重視していません。
例えば、パターンプラクティスでは、日本語の「私は〇〇です」という構文を学ぶときに、〇〇のところに「教師」「学生」「アメリカ人」「韓国人」など様々な語彙を入れて練習しますが、これらをどういった場面で使うのかという文脈はあまり考慮されないケースが多いです。
コミュニケーションのための活動は、あくまでこの文型が定着した後にやるというスタンスです。
正確さが重視され、間違いは「正しい習慣」の形成に悪影響を及ぼすと考えられるため、訂正されます。
コミュニカティブ・アプローチ
コミュニカティブ・アプローチでは、ロールプレイや、インフォメーションギャップ、問題解決型のタスクなどがよく取り入れられます。
コミュニケーションのための練習が重視され、文型練習などはあくまで副次的なものです。
学習者中心と言われ、学習者のニーズに合わせて教室活動を柔軟に変えることも多いです。
また、言語を実際に使うことを重視するため、言語が使われる状況(文脈)を重視しています。
例えば、ロールプレイをするときも「近くのスーパーに買い物に行く」など場面設定をすることが大前提となっています。
流暢さが重視され、間違いは、中間言語研究の知見に基づき習得の過程とみなされることが多く、オーディオリンガル・メソッドほど間違いの修正を重視はしていません。
まとめ
よく比較されるオーディオリンガル・メソッドとコミュニカティブ・アプローチを比較してみました。何かのお役に立てれば幸いです。
実際のクラスでは「一つの教授法」というより様々な教授法を取り入れているケースが多いのではと思います。
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