造語法
新しく語を作り出す方法のことを造語法といいます。
造語には2つの方法があります。
- まったく新しい語を作る(新造語)
- 既存語を基につくる
基本は、後者の既存語を基に新しい語を作るケースが圧倒的に多いです。
この記事では、主に三省堂辞書を編む人が選ぶ「今年の新語」に過去に選ばれた語を使ってこの造語法を紹介します。
まったく新しい語を作る(新造語)
日本語の場合、まったくの新造語は擬音語・擬態語などを除いてはほとんど存在しないといわれています(秋元 2002, p. 95)。
「今年の新語2020」の第1位に、悲しい時に小さく泣く様子を表す擬音語「ぴえん」が選ばれましたが、これは新造語の例だと考えられます。
中原中也の詩「サーカス」で空中ブランコの揺れる様子を「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」と表現しましたが、これも新造語だといえます。
既存語を基に作る
既存語を基に新しい語を作るときの方法として、以下のようなものがあります(秋元 2002, p. 95)。
- 合成
- 混淆
- 借用
- 縮約
- 文字・表記による方法
- 転成
- 逆成
①合成
合成は、既存の語を結合させて作った語です。
合成による造語はもっとも数が多いといわれています。
「今年の新語2019」の第3位で「あおり運転」があげられていましたが、これは「あおる」+「運転」で既存語を組み合わせた合成だと考えられます。
「今年の新語2019」の第2位は「にわか」で、それに付随して「にわかファン」も紹介されていました。「にわかファン」も「にわか」+「ファン」を合わせた合成ですね。
②混淆
混淆は、2つの語を混用して作った語です。2つの語の前半部と後半部を組み合わせて新しい語を作ることを言います。混成ともいいます。
「今年の新語2019」の選外に「タピる」というのがありました。
これは「タピオカドリンク」+「食べる」の「タピ」と「る」を組み合わせて作った語だと考えられるので混淆の例になります。
「今年の新語2020」の第9位のぜいたくなキャンプという意味の「グランピング」も、「glamorous」+「camping」の「gla」と「ping」を組み合わせてつくられているので、混淆ですね。
③借用
借用は、古語や方言、外国語から取り入れたものです。古語や方言などからの借用は内部借用、外来語からの借用は外部借用といいます。
内部借用の例は少ないと言われます。
「今年の新語2020」の第4位の「リモート」は英語からの借用の例です。
また「今年の新語2020」では選外(コロナ枠)として「ソーシャルディスタンス」「ステイホーム」「クラスター」「ロックダウン」もでていましたが、これも借用の例ですね。
「今年の新語2016」の第3位の「ゲスい」は下劣である意味の形容詞ですが、江戸時代にもあったようです。
ただ、今のように使われるようになったのは最近かと思うので、古語からの借用といえるかもしれません。
④縮約
縮約は、語を省略して作ったものです。
「今年の新語2019」の第4位の反社は、「反社会勢力」を省略したものなので、縮約の例です。
同じく、「今年の新語2019」の第5位のサブスクも、「サブスクリプション」を省略したものなので、縮約と考えられます。
縮約は日本語の場合、「サブスク」「セクハラ」「パワハラ」など4拍のものが多いですね。
⑤文字・表記による方法
文字・表記によるものは、文字・表記を媒介としたものです。
例えば、「米寿」は「米」の部分が「八十八」に分解できることからできた語です(秋元 2002, p. 96) 。
「Vネック」や「Uターン」も、「V」や「U」の文字が、それぞれ首回りの形や、往復と似ていることからできた語なので、文字・表記による方法による造語の例にあげられます(秋元 2002, p. 96)。
「今年の新語2017年」第6位の「草」は「笑うこと」という意味ですが、もともとは笑いを表す記号「w」を重ねた様子が草原に見えることからきているので、これも文字・表記による方法と言えるかもしれません。
⑥転成
ある品詞から他の品詞に転換することです。
「今年の新語2018」第3位の「わかりみ」は、「理解できること、共感できること」という名詞だそうです。動詞「わかる」を名詞に転換しているので転成の例と考えられます。
ちなみに、「ーみ」というのは一部の形容詞・形容動詞の語幹にのみつくものでしたが、これを「わかる」という動詞にまでつけて名詞化しています。
「今年の新語2017」第1位の「忖度」は、以前は「心中を忖度する」と動詞で使うことが多い文語でしたが、近年は「忖度が働く」「忖度がはびこる」など忖度を名詞として使う用法も増えているそうです。
この近年の「忖度」という語の文法的変化も転成と言えると思います。
⑦逆成
逆成は、語の一部が接尾辞に似ていることから、その部分を接尾辞と誤解し、この接尾辞とみなされた部分を除くことにより作られた語です。
普通は語をつくるときは、もととなる語に接辞などをつけて新たな語にする場合が多いですが、逆のことが起こっているため「逆成」と言われます。
なお、日本語ではほとんど例がないといわれています。
英語の例としては、「edit」や「baby-sit」があげられます。「edit」は「editor」の「or」が接尾辞と誤解され、その「or」をとることでできたそうです(秋元 2002, p. 96)。
「baby-sit」も「baby-sitter」から「er」をとって作られた動詞だそうです。
まとめと参考文献
造語法について紹介しました。
この記事を書くにあたって参考にしたのは下記の本のp. 94~99です。
- 秋元美晴 (2002). よくわかる語彙 (日本語教師・分野別マスターシリーズ). アルク
この本は新しいシリーズも出ています。
- 秋元美晴他 (2019). 日本語教育 よくわかる語彙. アルク