母語、母国語、第一言語、公用語の違いは?

母語・母国語・第一言語・公用語の違いについて

この記事では、母語・母国語・第一言語・公用語の違いについて紹介します。

  • 母語(mother tongue):子どもが生まれて最初に学ぶことば
    • 母国語:mother tongueの訳語で使われていたが、応用言語学関係の研究では、現在はほぼ使われていない
  • 第一言語(first language):最初に学ぶことば、自分が一番得意なことば
  • 公用語(official language):ある国・地域等の公の場で用いられる言語として定められた言語

上記は、基本的に応用言語学関係の研究などで使われる用法で(といっても、人によってとらえ方の違いはあるかと思います)、一般の用法と違うものもあるかと思います。

 

母語(mother tongue)

母語(mother tongue)は、子どもが生まれて最初に学ぶことばという意味で使われることが多いです。

 

ちなみに、両親の母語が違い、2つの言語に触れながら育った場合は、母語が2つあるということになります。

例えば、父親が中国語母語話者、母親が日本語母語話者で家庭で両言語を聞いて育った場合、母語は中国語と日本語になります。

 

中島(2016, p. 32)は、スクットナブ=カンガス(1981)を引用して、母語は以下の4つの役割を果たすといっています。

(1) 親子のコミュニケーションの道具、親子の絆となることば。

(2) ことばで感情や意思を伝えること、ことばを使って考えることを学ぶ。

(3) 行動のルール、価値判断を学んで親の文化の担い手になる。

(4) 言語経験がもっと豊かであるため文字習得に最適な言語。

上記の(1)と(3)で「親」という言葉が出てきているとおり、自分の主な養育者の言語というニュアンスが強いですね。なお、母語は使わないと後退し、喪失することもあります。

 

母語は、習得順序として最初に覚えたことばで、到達度としても一番よく使える言語であり、使用頻度としても一番使い、アイデンティティが持てる言語であり、他人からも母語話者だと思われていることと定義されることもあります(スクットナブ=カンガス(1981)、中島 (2016, p. 20)で引用)

 

ただ、この定義を使うと、「最初に覚えた言語=現在一番得意なことば」でないことも多いため、「自分の母語は何か」という質問に答えられにくくなる人も増えてしまうという問題があります。

特に移民などのケースの場合、家庭で話す言語と教育の言語が違うことが多く、全体的な傾向として教育を受けた言語のほうが得意になることが多いです。

 

母国語

なお、mother tongueの訳語として「母国語」があてられることもあります。ただ、現在の応用言語学関係の研究ではほとんど使われない語といっていいと思います。

学術論文検索用のGoogle Scholarで「母国語」でタイトル検索してみたところ、2017年以降の論文で「母国語」がタイトルに使われている日本語論文は23件のみ、「母語」がタイトルに使われている日本語論文は800件でした(検索日2021年3月11日)。

 

なお、なぜ「母国語」がほぼ使われなくなったかというと、母国語というとどうしても「国の言語」という意味が出てきてしまうからです。

日本語母語話者で日本で育った場合だと、母国語=日本語、母語=日本語といえる人が多いと思いますが、現在は国籍を持つ国、育った国、生まれた国、帰属意識を持つ国が違うケースも多いです。

「国の言語」=「自分の言語」とは違うため、学習者個人が研究対象になる第二言語習得研究などでは、母国語ではなく母語を使う人が圧倒的に多いと思います。

 

なお、一般のGoogle検索で検索してみたところ、2021年3月11日現在で、「母国語」は 4,250,000 件、「母語」は7,480,000件のヒットがありました。

母語のほうが多いものの、母国語もかなり使われている印象です。2021年現在、言語関係者とそうでない人で使用に乖離があることばと言えるかもしれません。

 

第一言語(first language)

第一言語は、習得順序が一番早い言語という意味で、母語と同義に使うこともあります。「母語(または第一言語)」などと書くことも多いです。

 

ただ、第一言語は「一番得意な言語」という意味で使われることも多いです。

この場合の第一言語は、到達度が一番高い言語で、自分を一番よく表現できる言語という意味です。

 

また、第一言語のことを「L1」と書くことも多いです。

ちなみに、第一言語を習得後に学習する言語のことを「第二言語(L2)」といいます。第二言語習得研究などでは、第一言語と第二言語を比較して話すことが多く、そのときはL1, L2という風に書いたりします。

 

公用語(official language)

公用語(official language)は、ある国・地域等の公の場で用いられる言語として定められた言語のことです。

なお、日本の場合、法令などによって公用語は定められていませんが、日本語が日本国内の実質上の公用語となっています。

 

多言語国家では憲法・法令などで公用語が定められていることが多いです。

例えば、シンガポールでは、憲法で「(1)  Malay, Mandarin, Tamil and English shall be the 4 official languages in Singapore.」とマレー語、マンダリン(標準中国語)、タミル語、英語が公用語であることが定められています。

 

まとめ

母語・母国語・第一言語・公用語の違いについてまとめました。

 

なお、母語・第一言語習得後に学ぶ言語のことを「第二言語(L2)」といいますが、言語教育では「第二言語」と「外国語」を分けて考えることもあります。

「第二言語」と「外国語」の違いについて興味のある方は、よろしければ以下の記事もご覧ください。

第二言語教育と外国語教育:ESL&EFL/JSL&JFLの違いについて