ダブル・リミテッド・バイリンガルとは?ダブル・リミテッド現象の年齢・領域・要因について

ダブル・リミテッド・バイリンガルとは

最近は子どもをバイリンガル、トリリンガルに育てたいと考える人も多いと思います。

ただ、「バイリンガル」と一口にいっても、いろいろなタイプがありますし(詳しくは「バイリンガリズムの概念:同時性・後続性・加算的・減算的バイリンガリズムについて」もご覧ください)、バランスよくどちらの言語も身に着けるというのは、どちらかの言語に接する機会が限られている場合などは、かなり難しいと思います。

例えば、日本に居住するポルトガル母語の日系ブラジル人家庭で、家庭外でポルトガル語に接する機会がない場合、ポルトガル語の能力を「年相応」のレベルまで伸ばすのはなかなか難しいと考えられます。

 

なお、バイリンガルを到達度にわけると3つに分類することができます(Cummins, 1979, 中島 2016, p. 6で引用)。

  • バランス・バイリンガル
  • ドミナント・バイリンガル
  • ダブル・リミテッド・バイリンガル

バランス・バイリンガルは、年相応のレベルまでどちらの言語も高度に発達しているケースです。

ドミナント・バイリンガルは、一つの言語は年相応のレベルまで発達しているが、もう一つの言語が明らかに弱いケースです。

ダブル・リミテッド・バイリンガルというのは、どちらの言語も年相応のレベルまで達していないケースです。

 

なお、最近では、以下のようにも言われています(中島 2016, p. 8)。

  • バランス・バイリンガル → 高度(に発達した)バイリンガリズム(proficient bilingualism)
  • ドミナント・バイリンガル → パーシャル・バイリンガリズム(partial bilingualism)
  • ダブル・リミテッド・バイリンガル → リミテッド・バイリンガリズム(limited bilingualism)

 

「double limited bilingual」という英語でGoogle Scholarで論文検索してみましたが、2000年以降の論文でヒットしたのは6件のみでいずれも日本語関係でした。

「double limited bilingual」という言い方は、あまり使われていないようですね。「limited bilingualism」のほうは2000年以降の論文で498件のヒットがありました。

 

ダブル・リミテッド現象

ダブル・リミテッド・バイリンガルの状態になるケース(ダブル・リミテッド現象)は多数報告されています。ただ、個人差も多く、言語以外の要因も関係していることも多いため、全体像の把握が難しい状況にあります。

中島(2007)は、ダブル・リミテッド現象の年齢・領域・要因を3つのタイプにわけています。

この記事ではこの中島(2007)の3つのタイプを簡単に紹介します。この論文は無料でアクセスできるので、詳しくはそちらをご覧ください。

タイプI:話し言葉に関するもの

幼児期話し言葉の習得が遅れることがあります。

要因としては家庭を中心とする言語環境の貧しさ(中島 2007)があげられます。

 

例えば、海外に住む日本語母語話者の家庭で、子どもは現地の保育園に行かせているケースを考えてみます。

家庭では日本語だったにもかかわらず、保育園に入ると突然家庭の言語と違う言語環境に置かれ、多大な心理的ストレスを感じる子どももいると思います。

また、もし両親が忙しく、保育園から帰った後、家庭で日本語で話す機会が少なければ、自分の意志や感情を表す時間も減ってしまいます。

このような状況が続くと、現地の言語も日本語もろくに話さず、子どもがぼーっとして反応が悪くなってしまうような、ダブル・リミテッド現象が報告されています。

 

幼児期のダブル・リミテッド現象は、親・周囲の大人の姿勢が変わって、年齢相応のことばの刺激があれば戻ると言われています。また、1つの言葉が普通に発達すれば、それを土台にもう一つの言葉も伸びていくと言われています(中島 2016, p. 79)。

特に、母語は2~5歳の間に完成するといわれていますが、この間に母語が発達しないと、学齢期に達した時には言語習得全体の遅れにつながる恐れもありますので、子どもの母語発達をサポートする必要はあります。

 

タイプII:文字・基礎的読み書きの習得の問題

次は4歳から9歳ぐらいまでに現れる基礎的な読み書き能力の習得の問題です。

 

学齢期に一時的に居住地を移動したことにより、学校での使用言語が変わってしまったことや、教育が一時断絶したことなどが原因で起こります。

親がいずれかの言語の読み書きが不自由な場合や、家庭でのサポートが不十分なことが原因になることもあります。

 

例えば、7歳のときにアメリカに移住した日本語母語話者の子どものケースを考えてみます。

現地の英語の学校に通っている場合、おそらく移住から数年後には、日本語より英語のほうが強くなる可能性が高いのではないかと思います。

ただ、英語力が伸び、日本語力が下がっていく(または停滞する)中で、どちらの言語も年相応のレベルに達していない、ダブル・リミテッド現象に陥ることがあります。

日本語で話すのも不自由になりますが、かといって英語も自由に使いこなせるわけではなく、一時的に子どもが心理的ストレスを抱えてしまうこともあるかと思います。

 

この状況が続くと、学習が困難になるだけでなく、自信喪失にもつながってしまいますので、親や周囲の大人がその状況に気づいてあげることが必要になります。

 

タイプIII:高度な読み書き能力と抽象的な語彙習得の問題

最後は、小学校高学年~高校までに現れる、高度な読み書き能力・抽象的な語彙習得の問題です。

 

日常会話能力と、学問的な思考をするときに必要な学習言語能力は違うと言われていますが(詳しくはこちらの記事をご覧ください)、後者の学習言語能力がどちらの言語でも身に着かない状態です。

どちらの言語でも抽象的な語彙数が少なかったり、読み書きや内容理解が困難になったり、作文力が低くなったりします。

アイデンティティの問題を抱えるようになってしまうことも多いです。

 

まとめ

ダブル・リミテッド現象は様々な場面で出てくることがあります。

ダブル・リミテッド現象は、子どもの性格や周りの環境に合わせて、親や周りの大人が対応すれば戻るとは言われていますが、勿論一日二日で戻るものではなく、長期的構えが必要です(中島 2007)。

 

環境によって違うとは思うのですが、親としては、二者択一になるのではなく、どちらのことばも大事という姿勢を示すことが大切だと言われています。特に、家庭の言語が、地域の言語や学校教育の言語と違う場合、家庭では母語を保持できるよう、母語のサポートをするのがいいと言われています(中島 2016)。

 

また、「ダブル・リミテッド」というのは、あくまで両言語のモノリンガルから見た場合に、それぞれ年相応のレベルに達していないという基準です。バイリンガルはバイリンガルの基準があるという意見もあります。

 

  • 中島和子(2016)『完全改訂版 バイリンガル教育の方法』 アルク.

バイリンガル教育に興味のある方は、上記の本が今までの研究成果等をまとめられていていいと思います。この記事を書く際も参考にしました。