敬語の5分類について(尊敬語・謙譲語I・謙譲語II・丁寧語・美化語)(敬語の指針(2007))

敬語の指針

敬語の分類方法はいろいろありますが、今回は文化審議会の国語分科会が2007年2月2日に提出した「敬語の指針」でのわけ方を紹介します。

この指針は、敬語が必要だと感じていても、現実の運用で困難を感じる人が多い人から、そういう人たちのために、社会教育や学校教育など様々な分野で作成される敬語の「よりどころ」の基盤、すなわち、〈よりどころのよりどころ〉として,敬語の基本的な考え方や具体的な使い方を示すものです。(「敬語の指針」2007,  p. 2)

敬語は相互尊重の気持ちを基盤とし、また、自己表現として使用するものであることなど、敬語に対する認識も記載されています。

また、方言の中の敬語の多様性、世代・性による敬語意識の多様性などにも触れられています。

 

敬語の指針での5分類

普段は、敬語というと、尊敬語、謙譲語、丁寧語に分けることが多いと思いますが、「敬語の指針」では以下のように5種類に分けられています(文化審議会答申「敬語の指針」2007,  p. 13)。

5種類3種類
尊敬語「いらっしゃる・おっしゃる」型尊敬語
謙譲語Ⅰ「伺う・申し上げる」型謙譲語
謙譲語Ⅱ(丁重語 )「参る・申す」型
丁寧語「です・ます」型丁寧語
美化語「お酒・お料理」型

尊敬語はそのままですが、謙譲語が「謙譲語I」と「謙譲語II」に、丁寧語は「丁寧語」と「美化語」にわけられていますね。

尊敬語

相手側又は第三者の行為・ものごと・状態などについて,その人物を立てて述べるものです。

「いらっしゃる」、「おっしゃる」、「なさる」、「召し上がる」などの動詞や、「お名前」「ご住所」などが入ります。

 

謙譲語I & II

謙譲語が2つにわけられた理由

「敬語の指針」では謙譲語が2つにわけられていますが、それは「対者敬語」としての謙譲語と「素材敬語」としての謙譲語があるからです。

 

もともと、敬語というのは「素材敬語」と「対者敬語」に分類されることが多いです。

素材敬語とは、話題の中の人物(素材)に対する敬意を示すものです。「先生がおっしゃる」といった場合、話題の中の人物(=先生)に対して敬意を示しています。

対者敬語は、実際に話している相手や、書いている読み手に対しての敬語です。「ですます」などの丁寧語がその例ですね。

 

  1. 明日、お客様が会社にいらっしゃるから、準備して。
  2. 明日、お客様が会社にいらっしゃいますから、準備をお願いします。

 

例えば、上記の例の場合、①②どちらも動詞「いらっしゃる」を使っており、話題の人物(=お客様)には敬意を示しています(つまり、①②どちらも素材敬語を使っている)

ただ、①のほうは、「準備して」と言っており、話し相手には「敬語」を使っていません。②のほうは「いらっしゃいます」「お願いします」と「ですます」を使って、話し相手にも敬語を使っていますね。(つまり、①は対者敬語は使っていないが、②は使っている)

 

謙譲語はもともと尊敬語と同じく、素材敬語に分類されていたのですが、それではうまく説明できないことがあることがわかりました。

例えば、以下の例があります(敬語の指針(2007, p. 38))

 

  1. 〇先生のところに伺います/参ります。
  2. ??弟のところに伺います。〇弟のところに参ります。

 

「伺う」「参る」どちらも謙譲語ですが、なぜ「弟のところに伺います」は変で、「弟のところに参ります」はOKなのか、説明がつかないことになります。

 

そこで謙譲語には、対者敬語の役割もあるのではということになりました。

つまり、「伺う」は話題の中の人物(=先生)に対する敬意を示す謙譲語(素材敬語)で、「参る」はその話題の人物に対するものではなく、話し手・読み手に対する敬語(対者敬語)と考えられるようになったわけです。

 

そこで、素材敬語の謙譲語を謙譲語I、対者敬語のほうを謙譲語IIとわけています。

どう見分けるかというのは、その謙譲表現を使ってカジュアルに物事が言えるかどうかで、ある程度判断できると思います。

 

  1. 明日、お客様のところに伺うから、準備しなきゃ!
  2. ?明日、お客様のところに参るから、準備しなきゃ!

 

②はちょっと変と思う人がいると思います。「参る」は対者敬語的なので、「ですます」とセットにして「参ります」のほうがしっくりくるのではないでしょうか。

謙譲語I

謙譲語Iのほうは、話題の中の人物に対する謙譲語(素材敬語)です。

敬語の指針(2007,  p. 15)では、「自分側から相手側又は第三者に向かう行為・ものごとなどについて,その向かう先の人物を立てて述べるもの」と説明されています。

「伺う」、「申し上げる」、「お目に掛かる」、「差し上げる」、「お届けする」、「御案内する」、「ご説明」などがあたります。

 

謙譲語Ⅱ

謙譲語IIは、話している相手、書いている読み手に対する謙譲語(対者敬語)です。

敬語の指針(2007,  p. 18)では、「自分側の行為・ものごとなどを,話や文章の相手に対して丁重に述べるもの」と説明されています。

例としては、「参る」、「申す」、「いたす」、「おる」、「拙著」、「小社」があげられています。

 

丁寧語

丁寧語は、話し相手や読み手に対しての敬語です。(敬語の指針(2007),  p. 20)

「です」「ます」がその例です。

 

美化語

美化語は、ものごとを美化して述べるものです。(敬語の指針(2007),  p. 21)

「お酒」「お料理」「お茶」などがそれにあたります。

まとめ

敬語の指針に掲載されている敬語の5種類について紹介しました。

もっと詳しく知りたい方は、この指針の作成に携わった文化審議会国語分科会委員でもある蒲谷宏や坂本惠などの著作にあたるといいのではないかと思います。

  • 蒲谷 宏他(2006)敬語表現教育の方法.  大修館書店 

 

敬語について興味のある方は以下の記事などもご覧ください。

敬語の分類について(素材敬語・対者敬語)

絶対敬語と相対敬語について