アンケート調査
研究でアンケート調査をする人も多いと思います。アンケート調査は短時間で多くのデータを集められ、分析も比較的簡単で、経済的にも効率的だといわれています(Döernyei and Taguchi 2009, p. 6)。
ただ、アンケート調査は限界があることが指摘されています。
アンケート調査を否定するわけではないですが、アンケート調査をする際にはその問題を理解したうえでやるのがいいかと思います。
この記事では、Döernyei and Taguchi (2009)『Questionnaires in Second Language Research』(p. 6~9)に記載されてあった、アンケートの問題を簡単に紹介します。
アンケートの問題
① 答えが簡略されて表面的
これは言うまでもないでしょう。
アンケートは皆が理解できるよう簡略化する必要があるため、「深い」答えを聞くことはできません。
② 回答者の中には信頼できない人ややる気のない人も
アンケート調査を受けるときに、あまり真面目に読まずにぱっぱと答えたことのある方は多いのではないでしょうか。
また、わざとでなくても回答を間違えて解釈することもあります。
アンケート調査へのリンクを大人数にメール送信した場合などは、そもそも回答しない人も多いでしょう。その場合、集められた回答はどうしても偏ったものになってしまいます。
③ 回答者のリテラシーの問題
アンケート調査は、回答者が読み書きができるという前提で行われています。
ただ、回答者がその言語の学習者であった場合など、回答すること自体が大変になってきます。
私も英語でアンケート調査を受けたことは何度かありますが、特に記述式回答では思ったことをうまく書き表せないがよくありました。
④ 回答者の間違いを訂正する機会がほぼない
アンケート調査は回答して終わりということが多いです。
なので、回収後に回答者と連絡をとって、回答を確認したり、間違いを訂正したりということができないことがほとんどです。
⑤ 社会的望ましさのバイアス(social desirability bias)
アンケート調査で得られるものは、回答者が実際に思っていることや考えていることでは必ずしもありません。
特に、社会的望ましさのバイアス(social-desirability bias)という有名なバイアスがあります。これは、回答者が他の人から好意的に思われるために、本来の意見とは異なる回答をすることです。
こういった社会的望ましさのバイアスはアンケート調査だけでなく、インタビュー調査などでもよく見られます。
⑥ 自分をだましている
上記の社会的望ましさのバイアスと似ていますが、意識的に真実を言わないというのではなく、自分の心を自分であざむいていること(自分をだましている)ということです。
数年前に読んだ「人が自分をだます理由:自己欺瞞の進化心理学」という本を思い出しました。
この本では、人間は、私欲のために行動するものではあるのですが、他人にはそういった隠された動機に気づかれたくないので、無意識的に自分をだましていると言っていました。
多かれ少なかれ、自己欺瞞は誰にでもある気がしますし、ある人の回答に対して「それは自己欺瞞だ」と研究者が判断もできないと思うので、どうしようもないことのような気もしますが…。
⑦ 同意バイアス(Acquiescence bias)
「同意バイアス」というバイアスも有名です。これは、回答者は、答えが不確かな質問にも肯定的な回答をしがちな傾向があるということです。
また、全般的に肯定的な回答を好む傾向がある人が一定数いるともいわれています。
⑧ ハロー効果
(過剰に)一般化してしまう傾向のことです。
人・物事を評価するときに、その人・物事の目立ちやすい特徴に引きずられて、他の特徴の評価も影響を受けることをいいます。
例えば、見た目がさわやかな人がいた場合、その人の性格もいいのではないかとか、頭もいいのではないかなど思いこんでしまったりすることがそれにあたります。(これはポジティブな例ですが、ネガティブなハロー効果もあります)。
例えば、アンケート調査で何かを評価してもらう場合、ある項目での評価が高かったとしても、実は別の項目に引きずられて高くなっているだけという可能性もあります。
⑨ 疲労効果(fatigue effect)
疲労効果は、設問が多かったり、同じような質問が続くことで、回答者に疲れが出て、それが回答の正確さや適切さに影響を及ぼすことです。
これは長いアンケート調査を受けたことがある人なら経験があるのではと思います。
まとめ
アンケート調査の問題について紹介しました。
上記のうち、特に後半部分はインタビュー調査などの質的研究一般にあてはまるものも多いと思います。
詳しくは下記の本をご覧ください。アンケート調査の作成・実施・処理を記載していて、役に立ちます。
- Dörnyei, Zoltán, and Tatsuya Taguchi. Questionnaires in second language research: Construction, administration, and processing. Routledge, 2009.
また、上記のいくつかの項目は事前に設問を工夫することである程度回避することは可能です。
↑詳しくはこちらの記事もご覧ください。