アクションリサーチ(action research)とは何か。

アクションリサーチとは

定義

アクションリサーチというのは、言語教育の場合は現場の教師が、自らの教育等をよくするためにやる、小規模なリサーチのことをいいます。

 

横溝(2001, p. 14)はアクション・リサーチをこのように定義しています。

  • 現職教師が自己成長を目指して行う自分サイズの調査研究
  • 教師が自己成長のために自ら行動(action)を計画して実行し,その行動の結果を観察して、その結果に基づいて内省(reflection)するリサーチ

 

横溝の定義にもある通り「自分サイズ」の調査研究です。

 

アクションリサーチの例

私のずっと前にでたワークショップの例を紹介します。

 

その教師は、クラスで「自分がしゃべりすぎているのではないか」と思ったそうです。

そのため、まず、同僚に協力してもらって、自分のクラスの教師(自分)・学生の教室内での発話量を調べたそうです。

 

具体的には、授業見学に来た同僚に、以下のような60個のボックスの書いた紙を渡したようです。

 

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ボックスは4つに分かれており、ボックスは1つ1分、4つの部分は各15秒ずつだと同僚に伝えます。

そして、同僚に2色の色鉛筆を渡し、教師の発話している時間帯は赤、学生が発話している時間帯は青と、15秒ずつ色を塗っていってもらったそうです。

 

そして、それを可視化して、自分の発話量を把握したあと、次のクラスでは「これだけ減らそう」と目標を立てたそうです。

 

そして、次のクラスも、また同僚に同様に記録してもらい、実際に発話量が減ったかを調べました。

(録音して自分で調べればいいのかもしれませんが、アクションリサーチは同僚と一緒に協働することも推奨されています。)

 

 

アクションリサーチのよくあるトピック

アクションリサーチでよくあるテーマは以下のようなものです(Fischer 2001, Burns 2009で引用)。

  • 自分の指導・指導の変更/改善
    (例:自分の発音指導について学習者はどう思っているか?)
  • 学習者・学習方法
    (例:どういう活動が学生のモチベーションにつながるか?)
  • 現行のカリキュラム関連
    (例:どうやったら学校のカリキュラムをもっと学習者に魅力的なものにできるか?)
  • 自分の指導に関する信念・哲学と、自分の実践との関係
    (例:学習者主体に興味があるが、学習者主体・教師主体のバランスはどうすべきか?)

 

教師の身の回りにある課題ですね。

 

アクションリサーチのデータ収集方法

アクションリサーチは質的なものがほとんどで、以下のようなデータがよく使われます(Burns 2009)

  • クラス観察
  • インタビュー
  • アンケート
  • 日誌

 

自分が何を変えたいのか明確にしたうえで、柔軟にデータを集めることが多いようです。

ただ、triangulationといって、調査の妥当性・信頼性を高めるため、triangulationと言って、複数のデータを集めることが推奨されています(Burns 2009)。

 

アクションリサーチのプロセス

アクションリサーチは、計画、行動、観察、内省のサイクルを繰り返します。

 

  • 計画:自分の問題・疑問を明らかにし、先行研究を調べる。状況を変化・改善させるためのストラテジーを計画する。
  • 行動:計画を行動に移し、自らの行動に関して体系的にデータを集める。
  • 観察:自分の集めたデータを観察・分析する。
  • 内省:行動の結果について評価・内省する。

 

自分の行動について内省するというのはよくやることだと思うのですが、アクションリサーチの場合、体系的にデータを集め、分析するため、より客観的に自分の行動をみられるようになるということだと思います。

 

アクションリサーチの特徴

アクションリサーチの特徴として以下のことがあげられます。

 

教師自身が、調査参加者であり研究者であること

自分自身のクラスをよくするという目的でやっているので、教師は自分自身が調査に参加する参加者でもあり、研究者でもあります。

 

行動・内省を繰り返すこと

アクションリサーチは、「アクション」という言葉にもあるとおり、行動が伴います。

そして、クラスを改善するために何か行動を起こし、それを体系的に記録し、内省するというサイクルを繰り返します

 

一般化が直接的な目的ではない

アクションリサーチでは第一目的は自らの教育の質の向上にあります。

なので、成果を他の教育に一般化していくことは直接的な目的ではありません

 

現在

アクションリサーチは、教員研修などで使われているような印象です。

 

ただ、アクション・リサーチの直接の目的が一般化を目指すものでなく、実際の実施手続やデータ分析が厳密なものでないことも多いため、結果を学会・論文で発表するという点は弱いと言われています(Burns 2009)。

(また、教師自身が、多くの人に発表することや論文にまとめること自体を望んでいないケースも多いと思います。)

 

詳しく知りたい方は以下のページもご参照ください。

(↑今回の記事の定義のところでも引用させていただきました。)

 

以下の本も参考になるかと思います。

  • 横溝 紳一郎(2000)日本語教師のためのアクション・リサーチ. 凡人社

 

  • Burns, Anne. “Action research.” Qualitative research in applied linguistics. Palgrave Macmillan, London, 2009. 112-134.