前記事の続きで、中村(編)(2010)「ジェンダーで学ぶ言語学」についてです。
- 中村桃子, ed. ジェンダーで学ぶ言語学. 世界思想社, 2010.
その他の章も一章一章メモできればいいのですが、あまり時間を割けないので、自分の気になったところだけメモしておきます。
- 4章の因京子の漫画についての論文では、ジェンダー表現が発する意味というのは一様ではなく、その場面場面によって変わるということを例をあげて述べていました。例えば、「そおねえ」などの「女ことば」を使ったからといって、必ず「女性」という意味が出てくるわけでなく、相手に寄りそう態度など気分や態度を表わしたり、いつもとは違う人格(特に女性とは限らない)を表わしたりと、様々な意味が文脈によって現れるものだと言っていました。最近のポライトネス研究の流れに沿うものかなと思います。
- 5章の水本は、2005年5月から06年1月までのテレビドラマ15本における女性文末詞(「わ」「かしら」)を調べ、自然会話よりドラマでは女性文末詞の使用頻度が高くなっているといっていました。特に「わ」系の文末詞は自然会話の75倍の頻度で出たといっています。また、トレンディドラマでは、普段は女性文末詞使わないが、自己主張の場面で女性文末詞を使う、「スイッチ型タイプ」の登場人物もいるそうです。
- 9章の宇佐美は、男ことばは、「急いでいるんだ」「やめておこう」「飲むか」など、日本語教育でいう「普通形」、つまり「日本語の基本の形」を話し言葉でもそのまま使えるのに対し、女ことばは、「急いでいるの」「やめておきましょう」「のみますか」など、基本形をそのままではつかわず、「の」を付けたり、「おこう」を「おきましょう」、「のむ」を「のみます」と丁寧形にしたりしなければならないと指摘します。宇佐美は、日本語における女ことばといわれるものは、「男ことばと異なる別体系のことば」ではなく、「「基本の日本語」から、命令形や断定の助動詞、さらには、丁寧度の低い語彙等を取り除いたものの総体」(p.169)で、「女性は丁寧であるべき」というジェンダーイデオロギーが言語使用に濃く反映されたものであるといっています。