タスクベースの教授法(Task-based language teaching)とは
タスクベースの教授法(Task-based language teaching (TBLT))とは、特に1990年代ごろから盛んになったものです。
なお、日本語では、タスクに基づく言語指導法やタスク中心教授法などと言われることもあります。
TBLTでは、タスクの遂行を通して、学習を促進することで、正確さ、流暢さ、複雑さの3拍子揃ったコミュニケーション能力の習得を目指しています(小柳・向山 2018)。
TBLTの特徴の一つは、第二言語習得に関する研究結果に基づいていることです。
研究成果に基づいて、効果的な教材、教授法、評価などを提唱しています。
教授法というより、教育論・教育思想であるともいわれます。
タスクとは
TBLTは「Task-based」とあるとおり、タスクが鍵となります。
タスクとは、学習者が何らかの目的達成のために、文法・語彙などの言語形式だけでなく、意味に注目して行う言語活動のことです。
(とはいえ、定義もいろいろあります)
Ellis (2009, p. 223)は、様々な定義を検討したうえで、タスクは以下の基準を満たす必要があるといっています。
(簡略訳です。赤字は追加しました。詳しくは原文をご参照ください)。
- 一番の焦点は「意味」に置かれている(つまり、学習者は主に発話の語彙・語用論的意味の処理を行う)。
- 何かしらの「ギャップ」がある
- 活動を遂行するために、主に自分自身の言語・非言語的資源に頼る
- 言語使用以外に、明確に定められた成果がある
まず、タスクの一番の焦点は、「意味」であって、文法などの言語形式ではないというのがポイントです。
(もちろん言語形式も学習者の注意を向けさせるようにはしますが、主目的は「意味」になります。)
次に、2番目の点として、話し手と聞き手の間に情報差(ギャップ)がないといけません。
このギャップがあるからこそ、情報を伝えなければいけない、意見を言わなければいけない、意味を推論しなければいけないなど必要が生まれてきます。
3点目に、このタスクを遂行するために、自分の言語・非言語資源を使う必要があります。つまり、タスクでは自らが主体的に関わる必要があるということです。
4点目は、言語使用そのものが目的ではなく、言語は何かの成果を出すための手段ということです。
タスクベースの教授法のアプローチ
TBLTでは、タスクの遂行を通して、学習を促進するという点は同じだと思うのですが、ではどうやってタスクを遂行するのか、その中で教師はどのような役割を果たすのか、などという点で様々なアプローチがあります。
授業では、実際のタスクの前にプレタスクをしたり、タスクの後にポストタスクをすることも多いです。
とはいえ、TBLTのアプローチはいろいろあります。
以下は、TBLTで有名なLong, Skehan, Ellisのアプローチの違いをまとめた表です(Ellis (2009, p. 225)を引用。拙訳)
特徴 | Long (1985) | Skehan (1998) | Ellis (2003) |
---|---|---|---|
自然な言語使用 | 〇 | 〇 | 〇 |
学習者中心 | 〇 | 〇 | 必ずしもそうではない |
フォーカス・オン・フォーム | 〇 (修正フィードバックを通して) | 〇 (主にプレタスクを通して) | 〇 (TBLTクラスの全段階で) |
伝統的なアプローチの否定 | 〇 | 〇 | ✕ |
自然な言語使用(言語学習のための不自然な会話ではない)ということと、フォーカス・オン・フォームが重要という点はどのアプローチも、共有しているようです。
ちなみに、フォーカス・オン・フォームは必要に応じてあえて言語形式にも学生の注意をむけさせることです。
つまり、意味に主眼を置いたタスクを遂行するのですが、そのときに何らかの形で言語形式にも着目させることは重要だと考えているようですね。
ただ、フォーカス・オン・フォームのやり方や学習中心で進めるかなどはTBLTを提唱する学者の中でも意見が分かれるようです。
まとめと興味のある方は
簡単にですがTBLTについて紹介しました。
今回の記事で参考にしたのは以下の論文です。
- Ellis, Rod. “Task‐based language teaching: Sorting out the misunderstandings.” International journal of applied linguistics 19.3 (2009): 221-246.
Ellisは以下の書籍の編者もつとめています。
- Rod Ellis et al. (2009). Task-Based Language Teaching: Theory and Practice. CUP.
日本語だと、以下の本の第5章にもTBLTの説明があります。
- 小柳 かおる・向山 陽子(2018)『第二言語習得の普遍性と個別性 ―学習
メカニズム・個人差から教授法へ』くろしお出版
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