現代仮名遣い
「現代仮名遣い」は、一般の社会生活において、現代の国語を書き表すためのよりどころを示したものです。
昭和初期までは、同じ[e]という音でも「ゑ」「え」「へ」と複数の書き方があり、混乱を生んでいました。
また、「てふてふ」と書いて、「ちょうちょう」と発音するなど、表記と音声に乖離があるものもありました。
このように複数の表記が生じた理由には、日本語の発音の変化などが影響しているのですが、とにかく表記が統一されていなかったわけです。
そこで、表記を統一しようと作られたのが、1946年に内閣告示として出された「現代かなづかい」です。
この「現代かなづかい」により、「ゐ」を「い」、「ゑ」を「え」と書くなど、表記の基準が示されました。
その後、1986年に改訂版である「現代仮名遣い」が告示され、今はこれが使われています。
なお、現代仮名遣いは、「現代の国語を書き表すための仮名遣いのよりどころを示すもの」で、「個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない」と明記されています。
あくまで「目安」という感じですね。
「現代仮名遣い」の本文は、「第1:原則に基づく決まり」と「第2:表記の慣習による特例」に分けられています。
要するに、原則と例外を説明したものですね。このそれぞれを簡単に説明します。
第1:原則に基づくきまり
第1の「原則に基づく決まり」では、現代語の音韻に従って用いる仮名の表記があげられています。
つまり、基本的な仮名の表記の仕方を説明しています。
1. 直音
↑よく見る「50音図」ですね。この50音図を使って、国語を書き表そうということです。
なお下線の引いてある「を」「ぢ」「づ」は、それぞれ「お」「じ」「ず」で発音されます。
「第2: 表記の慣習による特例」で例外規定がされています。
2. 拗音
↑拗音(子音+半母音+母音の音節構造をもつもの)の一覧表です。
「や」「ゆ」「よ」はなるべく小書きにするなども書いてあります。
なお、下線の引いてある「ぢゃ」「ぢゅ」「ぢょ」も、現代は「じゃ」「じゅ」「じょ」と発音されます。
これも「第2: 表記の慣習による特例」で例外規定がされています。
3. 撥音
撥音として、「ん」があげられています。
4. 促音
促音として「っ」があげられています。
また、なるべく小書きで書くよう注記があります。
5. 長音
伸ばす音です。以下のようなきまりが記載されています。
- ア列の長音は「あ」を加える(例:おかあさん、おばあさん)
- イ列の長音は「い」を添える。(例:にいさん、おじいさん)
- ウ列の長音は「う」を添える。(例:くうき、ふうふ)
- エ列の長音は「え」を添える。(例:ねえさん、ええ)
- オ列の長音は「う」を添える。(例:おとうさん、とうだい)
第2:表記の慣習による特例
「第2: 表記の慣習による特例」というのは、第1で挙げたルールの例外をあげたものです。
現代の音韻には従っていない表記法のことです。基本は、音声と文字の表記が一致していないものですね。
例えば、助詞の「は」は発音は、「は」でなくて「わ」と発音します。ただ、表記上は「は」にしましょうというようなものです。
6つの特例と、1つの付記で、計7つになっています。簡単に説明します。
1~3. 助詞の「を」「は」「へ」
1つ目から3つ目は、助詞「を」「は」「へ」の表記についてです。
助詞の「を」「は」「へ」は、「お」「わ」「え」と発音されますが、「を」「は」「へ」と表記します。
4. 動詞の「いう(言)」
4つ目は動詞の「いう」です。
「いう」は、「どういうふうに」や「人というもの」というように、発音は「ゆう」になることも多いですが、「いう」と表記します。
5. 「ぢ」「づ」
5つ目は、「じ」と「ぢ」、「ず」と「づ」の書き分けについてです。いわゆる四つ仮名ですね。
(ちなみに、「じ」と「ぢ」、「ず」と「づ」は以前は別の音として区別して発音されていたようですが、今は同じ音で発音しています。)
基本は、「じ」と「ず」と表記します。
ただ、以下の場合は、「ぢ」「づ」が使われるケースもあります。
- 同じ音が続いたため、濁音化した場合
ちぢみ
ちぢむ
つづみ
つづく - 2つの語を合わせたときに、後の語が濁音化した場合
はな(鼻)+ち(血) → はなぢ(鼻血)
そこ(底)+ちから(力)→そこぢから(底力)
て(手)+つくり(作り)→てづくり(手作り))
なお、2つの語を合わせたものなのか、1つの語なのかわかりにくくなっている語については、本則として「じ」と「ず」と表記します。
ただ、「ぢ」「づ」を用いることも許容するとしています。
例としては、「せかいじゅう(世界中)」「いなずま(稲妻)」「きずな(絆)」「うなずく」「ひとりずつ」などがあります。
「せかいぢゅう」「いなづま」「きづな」「うなづく」「ひとりづつ」も許容されるとしています。
6. 「お」の長音
6つ目は、「お」の長音です。
「お」の表記で、「こおり」か「こうり」、「とおり」か「とうり」か迷ったことのある人も多いのではないでしょうか。
発音するときは「こーり」、「とーり」です。
原則の長音のルールに基づくと、「おとーさん」は「おとうさん」と、「お」の長音は「う」で表されますので、「こうり」「とうり」になりそうです。
ただ、「こおり」や「とおる」は、「う」ではなくて「お」で書くとしています。
- おおかみ(おほかみ)
- おおやけ(おほやけ)
- こおり(こほり)
- いきどおる(いきどほる)
- とおる(とほる)
- とお(とを)
これらの語は、歴史的仮名遣いで「ほ」「を」と書かれていたものです。
平安時代ごろは「こふぉり」「とふぉり」と発音されていたと推定されています。
その後、発音が変化して「こおり」「とおり」と変化し、そして「こーり」「とーり」と長音になったと言われています。
つまり、長音ではなく、違う発音だったんですね。
付記:「え」の長音
付記として「え」の長音についても記載されています。
「えいが」「とけい」などは、文字通り「えいが」「とけい」と読むことも、「えーが」「とけー」と長音で読むこともあります。
原則に従うと、「え」の長音は「え」で表記されます(「おねーさん」→「おねえさん」になります)。
つまり、「ええが」「とけえ」と表記されることになります。
ただ、このような語は「えいが」「とけい」と表記するとしています。
他には以下のような語があります。
- かれい せい(背)
- かせいで(稼) まねいて(招) 春めいて
- へい(塀) めい(銘) れい(例)
- えいが(映画) とけい(時計) ていねい(丁寧)
まとめ
現代仮名遣いについて簡単に説明しました。
ご興味のある方は以下の記事もご覧ください。
日本語の歴史について興味のある方は以下のような本もあります。
- 野村剛史(2019) 「日本語の焦点 日本語「標準形」の歴史 話し言葉・書き言葉・表記」講談社
- 山口 仲美 (2006) 「日本語の歴史」岩波新書