「~にしたがって」
この記事では、「~にしたがって」と「~にそって」の違いを説明しますが、その前に「~にしたがって」「~に沿って」の意味を確認します。
「~にしたがって」は以下の2つの用法があります(参考:グループKANAME(編)『複合助詞がこれでわかる』(2007)p. 93~p. 97)。
- 「従属的にあり方が決まる」用法
- 規則にしたがって、行動する。
- 先生の指示にしたがって、避難する。
- 「従属的に動く」用法
- 南下するにしたがって、気温がさがる。
- 情勢の変化にしたがって、対応を変える。
1のほうはXのあり方によって、Yのあり方がきまるという考え方です。
上記の例文だと「規則」や「指示」のあり方によって、「行動する」「避難する」などのあり方が決まるという意味になります。
2のほうは、Xがなんらかの動きを示していて、Yの動きもXの動きによって決まるというものです。
上記の例だと「南下する」や「情勢の変化」という動きによって、「気温」「対応」も決まってくるという意味になります。
この「~にしたがって」の2つの用法のうち、用法1のほうが「~に沿って」に変えてもOKなときがあります。
「~に沿って」
「~に沿って」もの2つの用法があります。
- 「~に合わせて」という用法
- 大学の方針に沿って、計画を立てる。
- マニュアルに沿って、対応する。
- 「(長く続く)Xと離れないで」という用法
- 川に沿って、歩き続けた。
- 線路に沿って、木が植えられている。
1のほうは「大学の方針」や「マニュアル」などに合わせて、「計画」や「対応」を行うという意味です。
2のほうは、「川」や「線路」など長く続くものの横を、離れないで並行にYを行うという意味になります。
「~に沿って」の2つの用法のうち、用法1のほうが「~にしたがって」に変えてもOKなときがあります。
「~にしたがって」と「~に沿って」の違い
ニュアンスの違い
さて、本題のこの2つの違いについてです。
以下の2つはどちらもOKですが、ニュアンスが違います。
- 会社の方針にしたがって、行動する。
- 会社の方針に沿って、行動する。
ポイントとしては以下の違いがあります(参考:グループKANAME(編)『複合助詞がこれでわかる』(2007)p. 130~p. 131)。
- 「~にしたがって」:「遵守性」がポイント
- 「~に沿って」:「流れ・方向性・順番性」がポイント
「~にしたがって」の場合、規範・ルールがあって、それに忠実に逆らわずに行うというニュアンスになります。
上記の例の場合、会社の方針を忠実に遵守して行動するというニュアンスになります。
「Xに沿ってY」の場合は、Xと同じ流れや同じ方向性で、Yを行うというニュアンスになります。
上記の例の場合、会社の方針が示す流れ・方向と同じように自分も動くというニュアンスになります。
「~沿って」を使いづらい例
以下のような例だと、「~に沿って」を使うと違和感を感じるのではないでしょうか。
- 飼い主の命令にしたがって、犬が「お座り」をした。
- ??飼い主の命令に沿って、犬が「お座り」をした。
「命令」という言葉は忠実に従うという、「遵守性」と結びつきやすい言葉でもあります。
また、「犬」は、飼い主に忠実に従うというイメージなので、遵守性のニュアンスの強い「~にしたがって」だと不自然ではありません。
ただ、そのようなニュアンスのない「~に沿って」だと少し変に聞こえます。
「~にしたがって」を使いづらい例
逆に、以下のような例だと「~にしたがって」を使うと違和感を覚える人もいるかと思います。
- ??店員さんが私の希望にしたがって、商品を提案してくれた。
- 店員さんが私の希望に沿って、商品を提案してくれた。
「希望」を忠実に遵守してという意味なら「~にしたがって」でもOKかもしれませんが、上記の場合は、「~に合わせて」という意味の「~に沿って」のほうがよく使うのではと思います。
まとめ
「~にしたがって」と「~に沿って」の違いについてまとめました。
ニュアンス的には、「~にしたがって」は「遵守性」がポイントに、「~に沿って」は「流れ・方向性・順番性」がポイントになるようです。
複合助詞の細かい違いについては以下の本などが詳しいです。今回の記事を書く際も参考にしました。
- 東京外国語大学留学生日本語教育センター グループKANAME (2007). 『複合助詞がこれでわかる』. ひつじ書房
↑「について」「に関して」「に対して」「によって」「において」「にとって」「として」「にしたがって」「につれて」「に応じて」「に基づいて」など、中級日本語学習者がよく質問するような複合助詞を説明しています。