百科事典的意味とは
百科事典的意味(encyclopedic meaning)というのは、認知言語学で出てくる用語で、籾山(2006)『認知言語学入門』, p. 94では、以下のように説明されています。
- 語の「百科事典的意味」とは、その語から想起される(可能性がある)知識の総体のことである。
- 「百科事典的意味」には、「慣習性」「一般性」「内在性」の程度が完全でない意味も含める必要がある。
この2点について「犬」を例に考えてみたいと思います。
その語から想起される知識の総体
「犬」を辞書でひくと、以下のように書いてあります。
これは辞書に記載されている意味ですが、私たちは、辞書の定義以外にもいろいろなことを思い浮かべます。
人にもよると思いますが、例えば以下のようなことを考える人がいるかもしれません。
- しっぽと耳がある
- 4本足で歩く
- 身近なペット
- お手・お座りなどの指示が聞ける
- 飼い主が大好き・忠実
- 散歩が好き
こういった「犬」と聞いて思い浮かべる(可能性のある)あらゆる知識の総体のことを「百科事典的知識」といいます。
「慣習性」「一般性」「内在性」の程度が完全でない
慣習性
慣習性は言語共同体で共有されている程度のことですが(籾山(2006), p. 100)、この百科事典的意味は、皆に共有されているわけではありません。その人の育ってきた環境・経験によって変わってきます。
同じ言語の話者でも、人によって「犬」として想起するものは異なってくるでしょう。
同じ日本語話者でも、犬を飼っている人と飼っていない人では、「犬」といって思い浮かべる知識は違うのではと思います。犬を飼っている人なら、以下のような知識も共有されている確率が高いかもしれません。
- 定期的に肛門腺を絞る必要がある
- フィラリアの対策が必要
- 雌の場合は避妊しない限りヒートがくる
犬を飼っていない人にはこういった知識は必ずしも共有されていないでしょう。
一般性
一般性は、その語が表す対象のどれだけの成員に当てはまるかという程度(籾山(2006), p. 100)のことですが、百科事典的意味は、すべての成員に当てはまるわけではありません。
上記に犬の百科事典的意味の例として、以下の例をあげました。
- お手・お座りなどの指示が聞ける
- 散歩が好き
ただ、しつけをしていない犬は、「お手」や「お座り」はできないでしょうし、散歩が好きじゃない犬もいるでしょう。
内在性
一般性は、その語が表す対象に内在している程度(籾山(2006), p. 100)のことですが、百科事典的意味は、内在していないものも含まれています。
上にあげた意味のうち、以下の2つは「犬」そのものの形状備わっているもの(内在しているもの)と考えられます。
- しっぽと耳がある
- 4本足で歩く
一方、以下のものは、「犬」そのものに備わっているというより、人間という外的なものとの関係によるものなので、内在性は低いといえます。
- 身近なペット
- お手・お座りなどの指示が聞ける
- 飼い主が大好き・忠実
百科事典的意味は、こういった内在性が低いものも含まれています。
まとめ&ご興味のある方は
百科事典的意味についてまとめました。ご興味のある方は、以下の記事もご覧ください。
認知言語学について詳しく知りたい人は下記の入門書がおすすめです。
- 籾山洋介. 日本語研究のための認知言語学. 研究社, 2014.
↑数年前に読みましたが、わかりやすく認知言語学の概念などを紹介していて、よみやすかったです。
- 荒川洋平, 森山新. わかる!! 日本語教師のための応用認知言語学. 凡人社, 2009.