複言語教育と英語教育
2000年代以降、特にヨーロッパでは複言語主義といって、学習者が持っている言語を尊重しようという動きが出てきます。
それに伴い、英語教育でも、目標言語のみを使用するのではなく、学習者の言語比較したりする活動など、複言語指導(plurilingual instructions)を入れるケースが出てきています(Galante et al. 2020)。
日本で英語を教える場合などは、英語クラスでも日本語を使うことも多いと思いますが、英語圏での英語クラスなどは、学習者の母語が多様なことも多く、英語のみでやることが多いかと思います。
英語圏の英語クラスの場合、複言語指導を入れてみようと思っても、研修を受けていない教師や、自分が英語しか話せないという教員は、実施に不安に思う人も少なくないようです(Galante et al. 2020)。
Galante et al.の論文
今回読んだ以下の論文では、カナダのトロントの大学の英語クラスの中で、複言語タスクを入れてみた結果を報告していました。
- Galante, Angelica, et al. ““English‐Only Is Not the Way to Go”: Teachers’ Perceptions of Plurilingual Instruction in an English Program at a Canadian University.” TESOL Quarterly (2020).
具体的には、英語と自分の言語・文化を比較させる時間を設け、そのペアワーク中などに必要なら自分の言語を話すことを可とし、また他のクラスメートが言った英語以外の言葉を多言語辞書で調べることを推奨するなどしたようです。
クラス見学や担当英語教師7名へのインタビューを通して、複言語指導の利点や課題などを探っていました。
Galante et al (2020)の研究の結果
教師の反応
今回の論文では、教師7名全員が複言語指導に抵抗はなく、安心して取り組めていた(feel comfortable)ようです。
その理由としては、自分が言語を学んだ経験が生かせたことがあったようです。
(今回の教師は自身も他言語を学んだ経験がある人ばかりだったということも影響しているかもしれません)
複言語指導の利点
複言語指導の利点として以下のようなものがあったそうです。
- 学生の経験を引き出すことができる
- 自分のモノリンガル・モノカルチャルな考えを見直せる
- 学習者の主体性が高まる
- 学習者がクラス内で自分の言語知識を見せられ、プライドが示せる
- 言語学習により積極的になる
- 母語を使うことで安心の空間を作られる
プラスの効果として、学習者の母語を使うことで、主体性が高まったり、学習に積極的になったり、不安が減ったりということがあったようですね。
複言語指導の懸念
ただ懸念として以下のようなものもあったようです。
- 英語とのバランスを考える必要性
- 一部の言語が強くなりすぎ
あくまで英語のクラスなので、どの程度複言語指導を入れるかは課題ということでした。
また、中国語母語の学生が今回のケースでは多かったようで、クラス内で中国語が強くなってしまい、他の母語の学生への配慮が必要との声もあったようです。
興味のある方は
CEFR(や複言語主義)について興味のある方は以下の本がわかりやすいと思います。
- 奥村他(2016) 『日本語教師のためのCEFR』くろしお出版
言語教育・学習における複言語主義については以下のような本もあります。
- Choi, Julie, and Sue Ollerhead, eds. Plurilingualism in teaching and learning: Complexities across contexts. Routledge, 2018.
今回の著者のGalanteもこの本の一章を担当しています。