待遇表現とは?
待遇表現とは、よく以下のように定義されます。
会話の相手や話題の人物との人間関係、会話の場面の改まり度、会話の内容などに配慮して使い分ける表現のこと。
(近藤・小森(編)(2012)研究社 日本語教育事典 、p. 171)
例えば、「青」という語は、友達と話すときも、上司と話すときも、フォーマルな場面でも、インフォーマルな場面でも「青」のままです。
「青」が、相手に合わせて「緑」とか「赤」には変わることはないと思います。
でも、「私は田中です」という文の場合、「私」や「です」の部分は、相手や場面によって言い方が変わると考えられます。
「俺は田中」と言って、「私」ではなく「俺」を使ったり、「です」をいわない場合もあるでしょう。
「田中と申します」と謙譲語「申します」を使うこともあるでしょう。
これは相手や場面を意識してのことで、このように会話の相手や話題の人物との人間関係、会話の場面の改まり度、会話の内容などに配慮して使い分ける表現を待遇表現といいます。
なお、「待遇表現」というのは日本語で生まれた表現で、私の知る限り、定着した英訳というのはないようです。
Taigu hyogenとローマ字で書いてから、「expressions of treatment」(Okamoto 2011, p. 3674)などの説明書きを加えることが多いようです。
待遇表現に含まれるもの
よく待遇表現といったときに含まれるものは、以下のものがあります(近藤・小森(編)(2012)研究社 日本語教育事典 、p. 171)。
- 敬語
- 授受表現(~てもらう、~てくれる)
- 前置き表現(すみませんが~、お忙しいところ恐縮ですが~)
- 呼称
- 軽卑(けいひ)表現(~のやつ、てめえ)
- 親愛表現
待遇表現の代表的なものは敬語や、「~てもらう」「~てくれる」などの授受表現だと思います。
なお、敬語などの聞き手を高く待遇するものは、プラスの待遇表現といわれます。
「~のやつ」、「てめえ」などの軽卑(けいひ)表現など、聞き手を低く扱う表現は、マイナスの待遇表現といわれます。
同じ敬語でも、「俺様」や「くれてやる」いうような自分を高めて相手を下げるような尊大語は、マイナスの待遇表現になります。
待遇表現の使い分けに影響を及ぼす要因
待遇表現の使い分けに影響を及ぼす要因は、①人間関係、②場面の改まり度、③会話の内容、④個人の心理的要因があります(近藤・小森(編)(2012)研究社 日本語教育事典 、p. 171)。
相手との関係
同じことを聞きたい場合も、会話の相手との関係によって言い方は変わってきます。
「ペンを貸してほしい」という内容のことを言いたい場合、上司と話すときは「すみません。お借りしてもいいですか?」などと敬語を使う人も多いでしょう。
仲のいい友達と話すときは、「ペン、借りてもいい?」と敬語は使わない人が多いと思います。
会話の場面
また、会話の場面によっても言い方は変わってきます。
例「私が次は話します」ということを言いたい場合も、重要な会議でプレゼンをしている場合と飲み会の場では言い方は変わってくるでしょう。
会議の場合は、「次は私のほうから〇〇についてお話させていただきます」と敬語を多く使って話すかもしれません。
飲み会の場だと「これについては私から話しますね。」と多少はカジュアルな言い方になるかもしれません。
会話の内容
また、会話の内容についても変わってきます。
「貸してほしい」ということを言いたい場合も、借りるものがペンの場合と、100万円の場合だと、おのずと言い方もかわってくるでしょう。
自分の心理的要因
自分の心理的要因も影響します。
人によっては誰に対しても、敬語を使わないという人もいるかもしれません。
自分が相手と距離を縮めたいと思っていたら、あえて敬語をなくすこともあると考えられます。
もっと詳しく知りたい方は
待遇表現について簡単に紹介しました。もっと知りたい場合は、以下の本などが参考になるかと思います。
- 蒲谷宏・坂本 恵・ 川口 義一(1996/2002)「敬語表現」大修館書店
- 蒲谷宏(2013)「待遇コミュニケーション論」大修館書店