OrtegaのCOVID-19後の言語学習(テクノロジー・ヘルス・人種)に関する講演を視聴しました。

Lourdes Ortegaについて

Lourdes Ortegaはジョージタウン大学の教授で、「Understanding Second Language Acquisition (Understanding Language) (English Edition)」の著者としても有名です。

このブログでも何度か紹介したことがあります(詳しくはこちらなどをご覧ください)。

 

OrtegaのCOVID-19後の言語学習についての講演があったので視聴しました。

 

この講演ではCOVID-19後の世界の言語学習として、以下の3つのキーワードをあげていました。

  • テクノロジー
  • ヘルスケア
  • 人種

 

最近Ortegaは社会正義(social justice)を強く意識しているようで、今回の講演もそれを感じるものでした。

 

以下、不正確な部分もあるかもしれませんが、備忘録に講演の内容を記録します。

 

 

①テクノロジー

テクノロジーへの依存

COVID-19により、これまで以上にテクノロジーに依存するようになっています。

 

COVID-19の前は、テクノロジーがどう言語学習を効果的にサポートできるかというのが課題だったのですが、

COVID-19が起きてからは100%オンラインになったことで、「100%オンラインで効果的で持続可能な言語学習とは何か」というオンラインありきの課題に変わっているとOrtegaは指摘します。

 

デジタルジャスティス

また、van Dijk(2020)の『The Digital Divide (English Edition)』を引用しながら、テクノロジーが不平等を再生産し、助長する可能性を指摘していました。

 

COVID-19でオンラインになってから、コンピューターへのアクセスが家庭内であるか、親がデジタルリテラシーがあるかなどによって、不平等が拡大し、特にマイノリティの多言語話者(minoritized multilinguals)が不利益を受けていると言っていました。

 

ちなみに、マイノリティの多言語話者(minoritized multilinguals)というのは、基本は貧しい移民の子ども(母語が英語ではない)というような意味で使っていたように思います、

(とはいえ、Ortega自身はあえて「immigrant children」などという言い方を避けているようでした)。

 

デジタルジャスティス(誰もが公正にデジタルリテラシーを学べるような環境を作ること)を実現することが必要で、そのために研究ができることを考える必要があるといっていました。

 

 

②ヘルス

ヘルスジャスティス

医療・ヘルスケア分野についても、COVID-19後はヘルスジャスティス(誰もが医療を公正に受けられること)を考えていくべきとOrtegaはいっていました。

 

医療の現場では、若い多言語話者(young multilinguals、移民の子ども)が、英語が得意でない親の通訳などをすることが多々あるといわれています。

これについてはヘルスケア分野(Cox et al. 2109など)や応用言語学(Showstack 2020など) 両方で研究がされているようですが、この若い多言語話者がCOVID-19でどういう経験をしたのかについても調査も進める必要があるといっていました。

 

学際的研究・先行研究の系統化

医療の現場では、英語が母語でない場合に意思疎通に問題がでることも多いらしいです。また、アメリカではモノリンガル のスペイン語話者(英語ができない人)のほうがCOVID-19に罹患しやすかったという研究結果もでているようです(Rodoriguez-Diaz et al. 2020)。

 

医療分野で言語は大きな役割を果たすことから、多言語でのヘルスケアを考えていく際に、応用言語学と他の分野で学際的考えられることがあるし、もっとブルーカラーの人達に着目する必要があるともいっていました。

さらに、医療・ヘルスケア分野における言語については既に数多く研究がなされているようですが、あまり知られておらず、系統だっていないので、それをまとめることも必要と指摘していました。

 

③人種

人種の重要性

COVID-19後は、Black Lives Mattersの運動があったりと、人種やレイシズムの問題が非常に大きく取り上げられています。

 

応用言語学では、Suhanthie MothaRyuko Kubotaなどが人種の問題に取り組んでいて、最近よく耳にしますが、これからもこの傾向は続きそうです。

 

また、人種を考える際の理論的枠組みの可能性として、Nelson Flores and Jonathan Rosa (2015) の「raciolinguistic」を紹介していました。

 

根源的問題としての人種

人種というのは、社会経済的状況等の他の状況を示す指標であるという風にいわれることがあります。

 

例えば、「人種が問題なのではなくて、その背景にある経済格差が問題で、これを是正することが必要」などという議論を耳にしたことがある人も多いかと思います。

 

ただ、Ortegaはそうではなく、人種そのものは社会的に作り上げられた概念だったとしても、構造化されたレイシズムがその他諸々の不平等を作り出していると指摘し、レイシズムこそが問題の根源なのだと主張していました。

 

アメリカで、きつい・汚い・危険のいわゆる「3K」と言われる職業にはBIPOC(black, indigenous and people of color(黒人、先住民、有色人種))の割合が高く、このような構造化されたレイシズムについて取り組む必要があるといっていました。

 

そして、レイシズムが問題の根源という証拠を探し、人種は重要だという前提にたって研究をする必要があるといっています。

 

まとめ

Ortegaの立場としては、全体的に公正な社会を実現するために(social justice)、COVID-19後にどんな問題に取り組まなければいけないか、その中で応用言語学の研究が何ができるかというような話だったような印象を受けました。

 

研究をし、それを発表していくこと自体が、ディスコースを作り上げていくプロセスともいえるので、研究を通して自分の望む社会を構築していくということなのかとも思いました。

 

social justiceに向けた研究についてもっと興味のある方は、Ortegaの所属するジョージタウン大学のInitiative for Multilingual Studiesの「IMS Georgetown」のYOUTUBEチャンネルで、関連動画が複数アップロードされているので、そちらもご覧ください。