ダイクシス(直示)とは
直示(ダイクシス:deixis)は、ギリシャ語の「指し示す(δειξις)」という単語に由来することばです。
ダイクシスは、発話場面によって意味が変わるものです。
例えば、以下の文を見てください。
この文の中の「明日」「私」「ここ」が指すものは、発話場面によって変わります。
例えば、Aさんが、2020年9月24日に大学の教室でこの発言をした場合、「今日=2020年9月24日」、「私=Aさん」、「ここ=大学の教室」になります。
Bさんが、2020年8月23日に会社のミーティングルームでこの発言をした場合、「今日=2020年8月23日」、「私=Bさん」、「ここ=会社のミーティングルーム」になります。
このように発話場面によって意味が変わる表現のことをダイクシスといいます。
ダイクシスの例
ダイクシスには以下のようなものがあります。なお分け方はいろいろあるようです。
人称直示
私、あなた、彼、彼女などの人物を指すもの
「先生」や「社長」、「母」なども含めることもあります。
空間直示
ここ、あそこ、上、下、左など空間を指すもの
「行く」「来る」なども視点によってかわることから、ここに含められることもあります。
時間直示
去年、今年、来月、今日、明日、今、今朝、昨夜など時間を指すもの
談話直示
「その段落にあったように」「さっきの例をみてみましょう」「この問題」など、談話の関係を指すもの
社会直示
「先生」などの敬称など社会的関係を指すもの。
敬語も、社会的関係を指し示すものとして含められることもあります。
なぜダイクシスは重要なのか
ダイクシスは語用論では重要な概念になります。
語用論というのは、言語と言語が使用される社会文化的状況に着目した分野で、言語の使用される状況(コンテクスト)を重視しています。
↑詳しくはこちらをご覧ください。
ダイクシスというのは、その意味が発話場面に依存するものです。
発話場面(言語が使用される状況)なしにはそれが何を意味するのか解釈できないものなので、ダイクシスは言語と発話場面をつなぐ接点になるともいわれています。
例えば、「今度、あそこいこうよ!」とAさんがBさんに言った場合、私たちは「Aさんは、、Bさんが『あそこ』がどこかわかっている」という前提で話していることがわかるわけです。
それにBさんが「そうだね」といったら、AさんとBさんには共通理解があったこともわかります。
ダイクシスを観察することは、話し手の意図(や話し手と聞き手の共通理解)を探る鍵にもなります。
また、人称代名詞「we」などをみると、話し手が誰を「私たち」と考えているのかを明らかにでき、話し手の所属意識なども知ることができます。
興味のある方は
ダイクシスについてまとめました。お役に立てれば幸いです。
もしダイクシスについてもっと詳しく知りたい方は、以下の本をご参照ください。
- Charles J. Fillmore (1997) Lectures on deixis. CSLI Publications
チャールズ・フィルモアは、認知言語学に大きな貢献をした学者です。格文法、フレーム意味論を提唱したことでも有名です。
そのフィルモアのダイクシスについての講義録で、ダイクシス研究の礎となった本です。
- Charles J. Fillmore、 澤田 淳(訳)(2022) ダイクシス講義. 開拓社
和訳も出版されています。
以下の語用論の本にも「Deixis」の章があります。
- Levinson, Stephen C. “5 Deixis.” The handbook of pragmatics (2004): 97–121