応用言語学(語用論)におけるヘッジ(垣根表現)とは何か

ヘッジとは

「ヘッジ(hedge)」というと、リスクヘッジ(リスク回避)やヘッジファンドなど使われます。

そもそも「回避する」という意味ですが、応用言語学(特に語用論)でヘッジといった場合は、発話の確信度を意図的にあいまいにすることで、断定を避けるような、和らげ表現という意味で使われることが多いです。

例えば、日本語だと以下のような例があります。

 

A:なんで明日こないの?
B:最近、けっこう忙しい。行きたいんだけど

 

この場合、Bは「行きたいが、最近忙しいから」といってもいいのに、「けっこう」や「し」「けど」などを入れることで、言い切りを割けて、発言を曖昧にし、和らげています。

 

(なお、何をヘッジに入れるかというのは人によって違うこともあります)

 

Lakoff(1972)の定義

英語におけるヘッジの研究の嚆矢となった研究としては、Lakoff(1972)の研究が有名です。

 

Lakoffのヘッジの定義は、上記に述べた和らげ表現とは違い、以下のように言っています。

 

For me, some of the most interesting questions are raised by the study of words whose meaning implicitly involves fuzziness – words whose job it is to make things fuzzier or less fuzzy. (Lakoff,1972, p. 195)

私にとって、もっとも興味のある課題の一つは、暗黙のうちにあいまいさを含む語(つまり、物事をよりあいまいにするか、あいまいさをなくす機能を持つ語)に関する研究が提起するものである。

 

Lakoffにとってのヘッジは「暗黙のうちにあいまいさを含む語」、つまり、命題の真実性をあいまいにする表現のことです。

これだけだとわかりにくいので以下の例をみてみます。

 

 

He is really really smart

He is sort of smart

 

「really」「sort of 」は意味は違いますが、どちらも「he is smart」という命題の真実性をあいまいなものにしているといえます。

sort of は断定を避けることで「he is smart」をよりあいまいにしていますし、「really」は解釈を強めること(あいまいさをなくすことで)で、主観性が増し、真実から離れていると考えられます。

 

こういったreallyやsort ofをLakoffはヘッジと呼びました。

 

他の例としては、kind of, loosely speaking, more or less, roughly, pretty (much), relatively, somewhat, rather, mostly , very, exceptionallyなどを挙げています。

 

 

その後の発展

その後、ヘッジの中の分類などが進みました。

 

最近はこの記事の一番上に述べたとおり、断定を避ける表現としてヘッジを定義する人が多いようです。

 

例えば、Hyland (2005, p. 178)はヘッジについて以下のように定義しています。

the writer’s decision to withhold complete commitment to a proposition, allowing information to be presented as an opinion rather than accredited fact.

著者がある命題に対して完全にコミットするのを控えること。これにより、公認の事実というより意見として情報が提示されることになる。

 

例としては、「possible, might, perhaps」などを挙げています。

まとめ

応用言語学(特に語用論)におけるヘッジについてまとめました。

興味のある人は以下の本などがあります。

 

  • Kaltenböck, Gunther, Wiltrud Mihatsch, and Stefan Schneider, eds. New approaches to hedging. Brill, 2010.