Dell Hymesのコミュニケーションの民族誌とSPEAKINGモデルについて

Dell Hymesのコミュニケーションの民族誌

デル・ハイムズ(Dell Hymes)は社会言語学者・文化人類学者で、コミュニケーション能力を提唱したことでも有名な学者です。

コミュニケーション能力について①: Dell Hymes

 

Hymesは、「Ethnography of Communication(コミュニケーションの民族誌)」というものを提唱しています。

 

「ethnography(エスノグラフィー)」を「民族誌」と翻訳するとよくわかりにくくなる気がしますが、「ethnography(エスノグラフィー)」というのは、人類学の研究手法でよく使われ、研究対象のコミュニティなどにフィールドワークなどで入り込んで、コミュニティ内側の視点から、つぶさに観察することをよく言います。

 

「コミュニケーションの民族誌」というと、コミュニティを観察するのですが、その際にそこで行われている実際のやり取り(言語的側面)にも着目しています。

 

Hymesは、こういったコミュニティ内のコミュニケーションがどう行われているかを記述・分析するためには、言語そのものだけでなく、他の様々な要素を考えていかなければいけないと考えました。

 

1972年の論文でその考えるべき要素を「SPEAKING」モデルとして提示したのですが、それについて今回は紹介します。

 

  • Hymes, Dell. (1972/2009). Models of the Interaction of Language and Social Life. Coupland, Nikolas and Jaworski, Adam, eds. The new sociolinguistics reader. Basingstoke: Palgrave Macmillan.

↑1972年の論文はこの本に収録されています。Hymesの論文も含め、社会言語学の有名な論文をまとめた本です。

 

SPEAKINGモデル

SPEAKINGは以下の8つの要素の頭文字をとっています。

  • Settings/scene
  • Participants
  • Ends
  • Act sequence
  • Key
  • Instrumentalities
  • Norms
  • Genre

 

Settings/Scene

Settingsは発話行為が行われた場所や時間のことです。

Sceneはそのときに真面目な雰囲気だったか、お祭り騒ぎだったかのような、心理的状況のことを言います。

 

Participants

発話事象に参加する参加者のことです。

発話の話し手や聞き手、その人たちの属性(ジェンダー・年齢など)や、その参加者間の関係などが入ります。

 

Ends

コミュニケーションの目的や、それによって期待される成果のことです。

 

Act sequence

これは実際に発話したメッセージのことです。メッセージの内容だけでなく、その形式(どんな文法が使われているか)も入ります。

 

Keys

基調のことで、メッセージが伝えられる調子やトーンなどです。口調なども入ります。

 

Instrumentalities

言語・非言語の媒体(channel)のことです。対面で話しているか、書面でのやりとりなのか、電話でのやりとりなのかなどです。

また、それだけでなく、フォーマルに話すか、カジュアルな言葉を使うかなどのレジスターや変種なども入ります。

 

Norms

そのやり取りや解釈に影響を与える文化的規範のことです。

 

Genre

スピーチのジャンルのことです。詩や物語、講義、フォーマルレターなどをHymes(1972)は例としてあげています。

 

まとめ

SPEAKINGモデルについてまとめました。

このSPEAKINGを考えることで、あるコミュニティ内で、どうコミュニケーションを行い、コミュニケーションにはどんな規則があるかを記述・分析できると考えました。

 

Hymesは会話分析・談話分析などにも大きな影響を及ぼしています。

 

「コミュニケーションの民族誌」についてもっと知りたい方は、以下の本が有名です。

  • Saville-Troike, Muriel. The ethnography of communication: An introduction. Vol. 14. John Wiley & Sons, 2008.