「ポストモダニズムとは何か」読了。日本語訳が分かりやすくて感動しました。

以下のスチュアート・シム編(2002)の「ポストモダニズムとは何か」を読みました。

  • スチュアート・シム編(2002)「ポストモダニズムとは何か」(杉野 健太郎他翻訳). 松柏社.

この本は以下の「The Icon Critical Dictionary of Postmodern Thought」の第Ⅰ部の全訳だそうです。

  • Sim, Stuart, ed. The icon critical dictionary of postmodern thought. 1998.

まず訳が読みやすくて感動しました。学術書の日本語訳はかなり読みにくいというイメージがあったのですが、この本の訳はすっと頭に入ってきて、日本語として読みやすく、分かりやすかったです。(原文とは比べていないので、原文と比べてどかということは別問題ですが)

リオタールやボードリヤールなどからのポストモダンの流れと、哲学、建築、美術、映画、フェミニズムなどの様々な分野におけるポストモダンの影響をまとめていました。

読んでいて、ポストモダンというのは、「モダニズム」がよくもつ倫理的絶対感(ある倫理が正しいとする考え)を懐疑的に見つめる立場なのかなという印象を受けました。「倫理的絶対感がない」という立場、つまり、どの信念や考えも歴史の中で構築されたものだという立場をとることだと思います。

これを突き詰めていくと、ニヒリズムや相対主義に陥りがちになるのかなと思いました。

また、フレドリック・ジェイムソンというアメリカの批評家が言っていることだそうですが、ポストモダンは無意識・意識的に政治的な現状の維持を手助けすることになることによって、時の権力を助けることになると言っています。ポストモダニズムの立場だと、たぶん時の権力が「悪い」から「改革しなければならない」という信念に、欺瞞を感じやすく、そういった政治的運動に関与しなくなりがちで、それが結果的に時の権力を支えることになる、ということだと思います。(第一章(シム)、p.24)

また、フェミニズムなどの分野では「女」というカテゴリーそのものに懐疑の念をすると、議論そのものができなくなってしまうというジレンマに陥ることもあるようです(第四章(ソーナム))

最近、応用言語学でもポストモダンの立場(参考:前記事)が取り入れられることも多いように思います。特に批判的応用言語学の分野ではそうです。示唆があることが多いのですが、言語教育の立場で考えると、、特に初級・中級クラスだと、ポストモダンという枠組みのみを使って言語を教えるということは私の知る限りでは知りません。たぶん、構造主義に基づく既存の枠組みを使いながら、それに批判的な目線も向けるというのが、現状では現実的なのかなと思います。

ポストモダン以降の流れももっと知りたいなと思います。