ムード(mood)とモダリティ(modality)の違いについて

ムードとモダリティ

ムードとモダリティはどちらも話し手の心的態度を表すものです。

研究者によって分類方法や定義は違うのですが、以下のように言われることが多いと思います。

 

  • ムードー文法的範疇
  • モダリティー意味的範疇

 

これについて例を出しながら少し説明したいと思います。

 

ムード

ムード(mood)は術語の文法的範疇で、術語の形式に基づいて話し手自身の心的態度を観察します。

つまり、ムードを分類するときは、以下のような文法形式に分けて考えます。

 

  • 直接法(indicative mood):現実世界の事柄を表すときの形
  • 命令法(imperative mood):命令・要求を述べるときの形
  • 仮定法(subjunctive mood):仮定を述べるときの形
  • 可能法(potential mood):可能なことを述べるときの形
  • 希求法(optative mood):願望や希望を表すときの形

 

英語の例

例えば、英語の場合は以下のようになります。

1. I read (直接法)
2. Read (命令法)
3. If I read…(仮定法)
4. I may write.(可能法)
5. I want to write (希求法)

 

 

術語がどの文法形式を使うかによって、「命令法」なら命令をしている、「直接法」ならその事柄を事実だと思っているなど、話し手の態度がわかります。

 

術語の形式をもとに考えているという点がムードの特徴です。

 

モダリティ

モダリティは話し手の心的態度を表す意味的範疇で、意味をもとに話し手自身の心的態度を観察します。

 

分け方はいろいろありますが、英語だと次の2つに分けることが多いです。

 

  • 認識的モダリティ(epistemic modality):話し手のある事柄に関する確信の度合いを表す
  • 義務的モダリティ(deontic modality):拘束・義務・許可・能力などを表す

 

 

ムードの場合、術語のみを基本対象にしますが、モダリティの場合は、「認識」や「義務」の意味を表す語彙・文法等を考察するということが多いです。

 

何をモダリティに入れるかは諸説ありますが、英語の場合は動詞、法助動詞、副詞などを含めることが多いようです。

イントネーションなども入れることもありますし、こういった語彙・文法が使われる文脈を考察することもあります。

 

英語の例

例えば、英語の場合は以下のようになります。

  • 認識的モダリティの例
    • She is probably late
    • He might not come today
    • It must be true
  • 義務的モダリティの例
    • You must study hard.
    • You may go home now.

 

上記の例の「probably」という副詞や「might」「must」などの法助動詞は、その事象に対する話し手の確信の度合いの強さを表しているので認識的モダリティと考えられます。

must」や「may」は「勉強しなければならない」「帰ってもいい」というように、義務や許可を表すので、義務的モダリティと考えられます。

英語の場合、同じ「must」や「should」を使っていても、文脈によって、義務の意味になったり、認識の意味になったりと、意味が変わります。(なお、認識的モダリティと義務的モダリティ、どちらなのか判断に迷うものも結構あります。)

 

いずれにせよ、意味をもとに考えているという点がモダリティの特徴です。

 

日本語研究におけるモダリティ

日本語の場合、モダリティの分類方法は多様で研究者によって使う用語なども違います。

(例えば、日本語のモダリティ研究の第一人者の一人である益岡の分け方については『日本語のモダリティの益岡の研究についての覚書』もご覧ください。)

 

日本語と英語の違いについては以下の記事もご覧ください。

日英モダリティに関する黒滝(2005)の「DeonticからEpistemicへの普遍性と相対性」を読みました。

 

まとめ

ムードとモダリティの違いについて説明しました。

ただ、上記にも述べた通り、この分け方に異論はあります。

 

モダリティという用語が文法範疇と概念的範疇(notional category)の両方を指すようになっているという指摘もあります。

(詳しくは『モダリティ研究の概要についてまとめたNarrogの本を読みました①』をご覧ください。)