音声学とその3つの分野(調音音声学・音響音声学・知覚音声学)について

参考にした本

音声学とその分野について紹介したいと思います。

 

今回の記事を書くときに、以下の本を参考にしています。

  • 川原繁人(2015)音とことばのふしぎな世界: メイド声から英語の達人まで. 岩波書店

↑音声学の入門書です。わかりやすく書かれているので音声学の知識がなくても問題なく読めます。

川原本人が行ったメイド喫茶や日本語ラップの研究なども紹介されていて、楽しく読みました。

 

音声学とその分野

音声学とは「私たちがことばを話すとき、そこで何が起きているのか」(川原 2015, p. 3)を探る学問です。

音声学は、どう音が出るのか、そして音がどう伝播して、その音をどう知覚するのかを探ります。

 

川原によると、音声学は一般的に以下の3つにわけられるそうです。

1.調音音声学 ー どう音が産出されるか
2.音響音声学 - どう音が伝播するか
3.知覚音声学 - どう音を知覚するか

以下、この3つについて簡単に説明します。

 

調音音声学

調音音声学 (articulatory phonetics)は、どのように口を動かして音を出すかを研究する分野です(川原 2015, p. 3)

つまり、音の産出に着目した分野といえると思います。

 

↑これはウィキペディアの無料画像からとってきたものですが、音声学のクラスを受講すると、こんな人の横顔をよく見るのではないかと思います。

 

なお、音を産出するときにポイントになるのは以下の3点です。

  • 口のどこで空気の流れが狭められているか(調音点)
  • どのように空気を妨害しているか(調音法)
  • 声帯振動はあるか

 

子音を発音するときは、唇や舌によって空気の流れを狭めているのですが、口の中のどこで狭めているのかという調音点が大切になります。

例えば、[t]という音を発音するときは、舌が上の歯の根っこ部分(歯茎)に近づきます。ここで空気の流れを狭めているので、調音点は歯茎になります。

また、どのように空気を妨害しているかという調音法も大切になります。

 

声帯振動もポイントです。ちなみに、[t]の場合は声帯振動がないので「無声」になります。

 

最近は、MRIをはじめとする機器を使って、発音するときの調音点や口の中の様子を、より細かく観察しているようです。

 

音響音声学

音響音声学(acoustic phonetics)は、口の動きがどのような空気の振動に変換されるのかを研究する分野です(川原 2015, p. 3)

産出された音が、どう空気中を伝わるかに関する分野です。(数式などが多い分野でもあります。)

 

↑音声の編集などをする人は、この画像の上半分のところをみたことがあるかもしれません。

上半分のところは、音によって生じた振動のパターンを表したものです。

下半分は「声紋」を表しています。

 

音の空気振動をこのように可視化することで、様々な声の特徴などを分析することができます。

最近アプリなどである音声認識もこの音響音声学の知見を活用しています。

 

なお、この音響分析で使われるソフトでPraatというものがあります。

言語教育でも、発音指導をする際に、これを使って学生に指導している人もいます。こういうソフトを使うと学習者の発音を可視化でき、数値などを示しながら発音指導ができます。

(ちなみに上の画像もPraatに適当な音のファイルを読み込ませて作成したものです。)

 

 

知覚音声学

知覚音声学(auditory phonetics)は、空気の振動がどのように理解されるのか研究する分野です(川原 2015, p. 3)

音の知覚に関するものです。

 

なお、物理的な音と、知覚される音は違うといわれているようです。

例えば、川原(2015, p. 90-91)では、エマニュエル・デュプーを中心にしたフランスの研究チームが行った実験を紹介していました。

 

この実験では、[ebuzo]から[ebzo]へと母音が徐々に削られていく音を複数作ったようです。

対象者にその音をランダムに聞かせ、母音の有無を聞いたところ、フランス語母語話者は母音の長さに応じて判断する確率が高かったそうです。

これに対し、日本語話者は、[ebzo]という音をきいたときに、実際は音響的には母音がないにもかかわらず、母音があると判断していたそうです。

日本語はおそらく子音のあとに母音がつくため、脳が音をつくりあげた可能性があるようです。

 

これは一つの例ですが、実際の音と、脳が知覚する音というのは異なることがわかっているようです。

 

まとめ

音声学の分野について簡単に説明しました。

興味のある方はこの記事の最初に紹介した本などにあたっていただければと思います。