HylandのアカデミックライティングにおけるStanceとEngagementについて

Ken Hyland

Hylandはアカデミックな英語や、第二言語のライティングなどで数多く出版しています。

 

  • Hyland, K. (2003) Second Language Writing. Cambridge University Press

 

StanceとEngagement

学術論文の著者は、読み手の反応を予想しつつ、自身の研究を先行研究の中に位置づけながら、主張を展開しています。

 

論文の中で読み手とコミュニケーションをとっているといえるのですが、学術論文の中で書き手が読み手とやりとりする方法として、HylandはStanceEngagementという概念をあげています。

この2つについてこの記事では見ていきたいと思います。

 

参考にしたのは、アカデミックライティング(学術論文)を分析した以下の論文です。

  • Hyland, Ken. “Stance and engagement: A model of interaction in academic discourse.” Discourse studies 7.2 (2005): 173-192.

 

 

Stance(スタンス)

テキストの中で、著者が自らを表現し、自らの判断や意見、コミットメントを伝えることです。

 

つまり、著者が論文の中でらの態度を伝えることです。

では、具体的にどうやって伝えているのでしょうか。Hylandは、下位分類として以下の4つをあげています。

1. Hedges(ヘッジ)
2. Boosters(ブースター)
3. Attitude markers(態度マーカー)
4. Self-mention(自己言及)

 

Hedges(ヘッジ)

ヘッジはpossible, might, perhapsのように、その命題に強くコミットするのを避けるときに使われる表現です。

こういった表現を使うことにより、この命題が事実ではなくて、あくまで意見だという著者の態度を示すことができます。

 

Boosters(ブースター)

これはhedgesと逆です。clearly, obviously, demonstrateなど、確信があることを示す表現です。

こういう強い表現を使うことで、読み手と知識を共有していることを強調することもできます。

 

Attitude markers(態度マーカー)

これは、agree, prefer, unfortunately, hopefully, logical, appropriate, remarkableなど、驚き、同意、重要性、フラストレーションなど、書き手の情意的態度を表す表現です。

上記のhedgesとboostersは、ある命題に対する筆者の確信の強さ(認識の度合い)に関するものです。

それに対し、attitude markersは、「驚き」「フラストレーション」など、筆者の気持ちを表すものです。

 

Self-mention(自己言及)

これは、I, my, we, usなどの一人称代名詞を使うことです。

論文(特に理系の論文)では一人称の代名詞を使わないことが多いですが、文系の論文では、個人の意見を出したいときに「I feel」や「I argue」など「I」が出てくることがあります。

あえて「I」を使うことで、自らを全面に出すことができます。

 

 

Engagement(エンゲージメント)

Stanceは筆者の意見を伝えることでした。

これに対し、Engagementは、自分の立場について、読み手と関係づけようとすることです。

Engagementは読者をひきつけたり、読み手の期待に沿っていることを伝えたりと、読み手を意識した表現になります。

 

Hylandは、Engagementの下位分類として以下の5つをあげています。

1. Reader pronouns(読み手の人称代名詞)
2. Personal asides(個人的な注釈)
3. Appeals to shared knowledge(共有知識のアピール)
4. Directives(指示)
5. Questions(質問)

 

Reader pronouns(読み手の人称代名詞)

これはyou, yourという人称代名詞を使うことです。

これにより、直接読み手の存在を認識していることを示せます。

 

Personal asides(個人的な注釈)

書き手が、文を中断して、自分のコメントなどを述べることです。

例えば、” I believe many will agree with me” などという文を途中で入れたり、括弧書きで”this, by the way, is a quite recent trend” とコメントを入れたりすることです。

こういう言い方をすることで、読み手に直接話しかけるような感じになります。

 

Appeals to shared knowledge(共有知識のアピール)

その読み手と共通理解があることを示すことです。

例えば「of course, we know…といったり、「this measurement is different from the more familiar XX」と「the more familiar」などを入れたりすることがその例にあげられます。

 

Directives(指示)

consider, note, imagineなどの命令形や、must, should, oughtなどの義務を表す表現it is important to understandなどの言い方をすることです。

これも読者に直接働きかける表現です。

 

Questions(疑問形)

これは疑問形を入れることです。

疑問形を使うことで、読み手を書き手の視点に導きいれることができます。

なお、Hylandの調査では、学術論文では疑問形といっても80%以上が答えを求めていない質問だったようです。

 

 

まとめ

Hylandのアカデミック・ライティングにおける読み手とのやり取りする際の方法として、StanceとEngagementの概念を紹介しました。

こういった枠組みがあると、論文を分析をする際や、アカデミックライティングを指導する際には参考になりますね。