語用能力と留学
留学をする学生数の増加を受け、留学が言語習得に及ぼす影響について調査する研究も増加しています。
Journal of Pragmaticsの第146号に語用能力と留学についての特集が組まれていたので読んでみました。
- Barron, Anne. “Pragmatic development and stay abroad.” (2019): Journal of Pragmatics 146, 43-53.
このBarronの記事を含め、8つの論文が掲載されていましたが、この記事では主に、このBarronの論文で気になったところをメモします。
最近の研究の傾向と結果
留学といっても、語学を勉強しないケースや、リンガフランカとしての英語を学ぶケースなど(英語圏でない国で、英語で授業を受けるなど)、多様化しているそうです。(Barron 2019, p. 44)
また、論文データベース内の留学での語用能力発達を調査した研究をみると、「依頼」「謝罪」の方法等のスピーチアクトを対象にしたものが半数以上だったそうです。(Barron 2019, p. 45)
近年はコーパスを使った研究もあるようですが、数はそこまで多くないようですね。
留学をすれば言語習得は進むのではと思いがちですが、意外とそんな単純なものではないらしく、語用能力という点では、留学にいっていない学生のほうが成績がよかったという調査結果もあるようです(Niezgoda and Roever 2001)。
ネイティブスピーカーが、学習者に対してフォーリナートークを使うことも多いので、学習者がいわゆるネイティブスピーカーが普段受けるようなインプットを得ることは簡単ではないとも指摘されています(Jin, 2012, Barron 2019で引用)。
語用能力向上に影響を及ぼす要因としては、一般的には、留学の長さより、接触量の多さのほうが語用能力への影響が大きいといわれているようです(Bardovi-Harlig and Bastos, 2011)
興味のある方は
この前も紹介したTaguchiが、Roeverと共著で出版している以下の本で、留学について第7章に言及しています。
- Taguchi, Naoko, and Carsten Roever. Second language pragmatics. Oxford University Press, 2017.
↑近年の研究結果がわかりやすくまとめられていたのを覚えています。