言語テストについて
TOEFLやIELTS、日本語能力試験などの大きい試験から、日々の教室内での小テストまでさまざまな言語テストがあります。
言語テストというのは、程度の差はあれ、社会的、政治的な役割を果たしています。
例えば、移民の受け入れにおいて言語テストを課す場合など、どの言語レベルを移民に求めるのかというのは極めて政治的な判断でもあると言えます。
試験官がどこまでテストの結果に責任を負うのかというのは議論が分かれるところですが、テストの開発・実施は倫理的になされることが可能で、試験官の個人的な責任を強調する立場があります(マクナマラ 2004, p. 86)
マクナマラ(2004, p. 86-90)は、以下の本で、倫理的なテストを行う際に、考慮すべき重要な点として以下の3つを挙げています。
- ティム・マクナマラ『言語テスティング概論』(2004年)スリーエーネットワーク
↑原書がOxford University Pressの入門シリーズなので、短くコンパクトにポイントが記載されていて、読みやすいです。
- McNamara, Tim (2000) Language Testing (Oxford Introduction to Language Study Series). OUP
↑原書はこちらです。
説明責任(accountability)
言語テストを開発するときに、そのテスト開発に受験者が携わることはほとんどありません。
なので、倫理的にテストを行うためには、試験官は受験者に対してはテストの目的や、何が期待されているのかなどを説明することが求められます。
また、(特に英語では)リンガフランカとしての英語やWorld Englishesなどが議論されています。
開発者がどの英語を基準としているか、どこまで多様性を考慮にいれるのかなども明らかにする必要があるかもしれません。
波及効果(washback)
波及効果(ウォッシュバック)とは、テストがカリキュラムや指導内容に大きな影響を与えるということです。
これについては多数の研究が既にされていますが、正の波及効果の場合も、負の波及効果の場合もあります。
例えば、日本語能力試験は現状、文字・語彙、文法、読解、聴解から構成されており、すべて4択問題です。
試験対応に授業時間を割くとなると、産出する練習(スピーキングやライティング)がおざなりになってしまう可能性もあります。
倫理的なテストを行うためには、テストから正の波及効果が生まれるようにすることが求められます。
テストの影響(impact)
テストは教室外でも影響力があります。
こういう影響は予測不能な側面も多いですが、その結果についても考慮することも求められます。
興味のある方は
試験官の責任を、職業倫理の問題に限定する立場もあるようで、意見は分かれるようです。
- Hanson, F. Allan. Testing testing: Social consequences of the examined life. Univ of California Press, 1994.
↑だいぶ古い本ではありますが、上記のマクナマラの本で紹介されていました。
テストがどのように社会的実践として捉えられるか、そしてテストに関する様々な政治的・倫理的配慮を紹介しているそうです。
- Harding, Luke, and Tim McNamara. “Language assessment: The challenge of ELF.” The Routledge handbook of English as a lingua franca. Routledge, 2017. 570-582.
McNamaraは最近はリンガフランカとしての英語と言語アセスメントについても共著を出版していたようです。