ダブリン市立大学のO’Haganの動画がアップされていたので見てみました。ビデオゲームなどのマルチメディアの翻訳を幅広く研究している学者です。彼女の講演は数年前に1度聞きにいったことがありますが、とても興味深かったのを覚えています。
- O’Hagan (2014) Fan translation and translation crowdsourcing
この短い動画では、ファンによる翻訳と、翻訳のクラウドソーシングについて話していました。
彼女によると、技術の発展に伴い、誰でもが翻訳に参加できるようになり、娯楽として翻訳をする人もいるそうです(「play」と「labor」をかけてplaybor(Scholz 2013)と呼ぶ人もいるそうです)。
ファン翻訳というのは、ファンによるサブタイトル(Fansub)など、ファンがファンにするための翻訳のことです(Díaz Cintas and Sánchez 2006) 。オフィシャルな翻訳が出るのに時間がかかったり、オフィシャルな翻訳に満足できないファンが自分たちで翻訳しようという動きです。
ファンはかなりモチベーションも高く、お互いにフィードバックし合って切磋琢磨しているみたいです。しかも自分たちで一応倫理的な規範なものももっているようで、あまりに自分勝手なことをするファンがいると、叩かれるらしいです。(Lee 2011, O’Hagan 2008)
O’Haganは、ファン翻訳は違法ではあるが、市民が良心に基づいてあえて法律に従っていないと考えると(civil disobeidience)倫理的とも考えることもできるのではないかといっていました。また、ファン翻訳は過度に原文の要素をのこした翻訳をしていると言っていました(O’Haganは「abusive translation」という考えからきた、「abusive creativity」という言葉を使っていました)。例えば、日本のアニメで「おにぎり」が出てきた場合、「おにぎり」をrice ballと翻訳したり、donutsに変えてしまったりするのではなく、onigiriとそのままローマ字で書いたり、注釈をつけたりするということだと思います。
翻訳のクラウドソーシングはフェイスブックなどの会社が商業的利益のために、不特定多数の人に翻訳をさせるというものです。ウィキペディアと同じ仕組みで、誰でもが翻訳に参加できるようになっています。O’Haganは、翻訳のクラウドソーシングは合法ではあるものの、倫理的には、商業目的でただで労働させているため、どうなのだろうという話をしていました。
おもしろいトピックだなと思って聞いていたのですが、日本の大学では、違法なものへのアクセスを伴うファン翻訳研究を禁止するところもあるそうです。つまりファン翻訳をしている人にインタビューをするのはよくても、自らがファン翻訳にアクセスしてそれを分析するというのは違法アクセスになるのでアウト、という大学もあるとのことです。
私自身も結構研究中に著作権には気を遣うのですが、こういう研究は現段階では法律も曖昧なところも多いでしょうし、判断が難しそうですね・・・。
- O’Hagan, Minako, and David Ashworth. Translation-mediated communication in a digital world: Facing the challenges of globalization and localization. Vol. 23. Multilingual Matters, 2002.