ベンガル語の批評家のSpivak (1993/2000)のThe politics of translationを読みました。翻訳学の中でのポストコロニアル研究でよく引用される論文で、以下の本に収められています。
- SPIVAK, G.(1993/2000) ‘The politics of translation’, in L. Venuti (editor) The Translation Studies Reader. Routledge: London.
この中で、Spivakは、第三世界の文学の英語翻訳にはイデオロギーや政治が密接に絡んでいることを西洋のフェミニストの例を挙げて説明しています。
Spivakによると、西洋のフェミニストはヨーロッパ外の女性作家の文学を英語に翻訳しようとするのですが、そのときに、原文では途切れ途切れの文章を、流れるような英語にしたりと、translatese(翻訳言語:原文の特徴を消して、分かりやすい英語になっていること)に変えていて、原文を反映していないことがあると言っています。
Spivakによると、西洋のフェミニストは女性の連帯を主張することで、パレスチナの女性の文学も、台湾の男性の文学と同じようなトーンの翻訳言語にしてしまっているといっています。Spivakは、翻訳者は、原文とその文化背景などを理解し、原文と翻訳の間の「愛」を促すことが必要といっています(p.398)
また、他者について語りたいのであれば、他者の言語を学ぶべき(p.407)と結構過激なこともいっています。
彼女の考えはポストコロニアル翻訳理論に影響を与えているようです。
普遍主義と相対主義の問題もはらんでいるような気がしますし、西洋のフェミニストといっても一口ではまとめきれないと思うので、ちょっと単純化している感もありますが、おもしろい問題提起ではあると思います。また、この論文は結構読まれているみたいですが、それはSpivak彼女自身が「非西洋」出身というのも大きいのかなと思います。Spivakが翻訳者について話すときに「she」という代名詞を使っていたのも印象的でした。