Cumminsの相互依存モデル
以前、Cumminsの提唱した相互依存モデルと、BICS(いわゆる日常会話能力)とCALP(学問的な思考をするときに必要な言語能力)の区別について説明しました。
BICSのほうは2年ほどで習得可能ですが、CALPとなると5年~7年はかかるといわれています。
CumminsのCF, DLS, ALP
Cumminsは1990年代から、言語能力をCALPとBICSという二項対立ではなく、以下の3つに分けて考えます。
- Cummins, Jim. Negotiating identities: Education for empowerment in a diverse society. California Assn for Bilingual, 1996.
- Conversational fluency(CF)(会話の流暢度)
- Discrete language skills (DLS)(弁別的言語能力)
- Academic language proficiency (ALP)(教科学習言語能力)
会話の流暢度(CF)がBICSに当たるものですで、教科学習言語能力(ALP)がCALPに相当しますが、その間にDLSというものが加わりました。
弁別的言語能力(DLS)を加えた背景には、米国で当時行われていたマイノリティ言語児童のための政策・実践・評価がすべて文法や語彙の習得(いわゆるDLS)中心で、教科学習言語能力(ALP)の向上には力をいれていなかったことがあげられるそうです(中島 2016, p, 56)
Conversational fluency(CF)(会話の流暢度)
会話の流暢度というのは、日常生活に必要とされる会話力です。頻度の高い語彙や簡単な文法の使用を伴います。
いわゆるBICSにあたるものです。
学習者の場合、1年~2年ぐらいで習得可能と言われています。
Discrete language skills (DLS)(弁別的言語能力)
弁別的言語能力というのは、基本文法、音韻に関する知識、文字の習得(文字に関する知識・文字を解読する力)などの個別の言語技能を指します。
これは会話力の向上と合わせて、同時に学ばれることが多いです。
弁別的言語能力は、相互依存的なこともあれば、そうでないこともあります。
例えば、フランス語とスペイン語のバイリンガルだと、フランス語の文法知識がスペイン語を学ぶのにいかせます。
ただ、日本語とフランス語だと、それはなかなか難しく、言語ごとに学ばなければなりません。
DLSの習得期間は個々のスキルによって異なります。
文字の習得など、母語と似ている場合はすぐ習得するでしょうが、文字体系が違う場合はずいぶん時間がかかります。
Academic language proficiency (ALP)(教科学習言語能力)
教科学習言語能力は従来のCALPのことで、日常生活では聞かないような語彙の習得、抽象概念の理解などが含まれます。
また、言語的にも複雑で、抽象的な文章を理解し、さらには産出することも要求されます。
ALPの習得は5年~7年ほどかかるといわれています。
興味のある方は
この前も紹介しましたが、Cumminsと共同執筆もしている中島が以下のような本を出しています。
- 中島和子(2016)『完全改訂版 バイリンガル教育の方法』 アルク.
この本でもこの3つについて言及している箇所があります。
なお、日本では、日本語が母語でない児童のALPを測るため、「外国人児童生徒のためのJSL対話型アセスメントDLA」というものが開発されています。
カミンズの論文を中島が翻訳して出版した本もあります。
- ジム・カミンズ(2011)『言語マイノリティを支える教育』慶應義塾大学出版会