フランスのRadio France Internationaleというラジオ国際放送局の番組の1つに「Danse des mots」(http://www.rfi.fr/emission/danse-mots/)という言語関係のトピックを扱うものがあり、フランス語の練習もかねて最近聞いているのですが、昨日聞いたものが面白かったのでメモします。
- A quoi reconnaît-on une bonne traduction ?(「何をもって良い翻訳と言うのか」という感じでしょうか)
http://www.rfi.fr/emission/20130114-reconnait-on-une-bonne-traduction/
放送日:2013年1月14日
ゲストできていたのはRudy Loockでリール第三大学の教授です。
彼によると、翻訳作品と、翻訳でない作品を調べると、翻訳作品のほうが文法上の省略が少なくなる傾向にあるそうです。例えば、英語だと、翻訳作品は「isn’t」が少なくなり、「is not」が多くなるとのこと。また、スペイン語は主語省略が可能な言語ですが、翻訳作品では主語省略が減るそうです。
これについては、①「翻訳言語」としてみなすべきという見方(例えば英語の場合だと、インド英語、シンガポール英語などのいろいろな英語の種類の一種として翻訳英語があるという見方)と、②翻訳言語は、目標言語に近くすべきで、こういった翻訳言語は直すべきものという考え方があるとのこと。
ただ、目標言語で分かりやすい翻訳がいい翻訳とはいえず、「フォレストガンプ」の仏訳では、フランス語としては分かりやすいものの、原文のキャラクターの話し方の特徴が失われていて(ここはうろ覚えですが、確か方言で話す人が、翻訳文ではカジュアルな言葉で話す人になっていたとかそういうものだったと思います)、あたかも違うパーソナリティーの人のようになったりすることもあると言っていました。
Venuti(1995)は以下のTranslator’s invisibilityという本で、foreignizationとdomesticationという概念を提言しているのですが、それにも言及していました。
- Venuti, Lawrence. The translator’s invisibility: A history of translation. Routledge, 1995.
ちなみに私のざっくりした理解だと、foreignizationというのは、原文の要素を残す翻訳ストラテジーで、domesticationは目標言語に合わせて原文の要素を変えてしまう翻訳ストラテジーです。
例えば、アニメの『キャプテン翼』はアラビア語版だと『キャプテンマジッド』になるそうですが、これは原文の日本語的な要素(「翼」)を消してしまう、domesticationストラテジーになります。知り合いが、英語版ポケモンで、「おにぎり」が「ドーナッツ」と翻訳されていたと言っていましたが、これも日本語的要素「おにぎり」を消してしまうdomesticationストラテジーの例でしょう。
逆に、『ちびまる子ちゃん』はアラビア語版ではそのまま『まる子』と呼ばれているそうで、これはforeignizationストラテジーになります。
上記のフォレストガンプの例もdomesticationの一例で、domesticationするのがいいというわけではない、というふうにもとれるように思います。ちなみにVenutiもforeignizationを推奨しています。