中間言語とは
中間言語(interlanguage)とは、セリンカー(Selinker)が提唱した概念です。実際に中間言語の概念を提唱したのは1969年の論文のようですが、以下の1972年の論文が有名です。
- Selinker, L. (1972). Interlanguage. IRAL-International Review of Applied Linguistics in Language Teaching, 10(1-4), 209-232.
以前の記事でも書きましたが、1960年代の第二言語習得は誤用分析が多かったのですが、誤用だけでは不十分で、学習者の持つ言語体系全体を理解する必要があると考えられるようになりました。
セリンカーは、以下のように、学習者は、母語とも目標言語とも異なる、別個の言語体系を持つとの仮説を提唱し、その別個の言語体系を「中間言語」と呼びました。
‘[…]one would be completely justified in hypothesizing, perhaps even compelled to hypothesize, the existence of a separate linguistic system based on the observable output which results from a learner’s attempted production’ (Selinker 1972, p.214)’
学習者が目標言語の規範を産出しようと試みた結果として、実際に観察可能な形でアウトプットされたものに基くと、別個の言語体系というものが存在するとの仮説を立てられるのではないか。というより、むしろそういった仮説を立てざるを得ないのではないか。
もちろん、この中間言語というのは習得につれて変更していくものですが、決してランダムなものではなく、中間言語には中間言語の規則があると言っています。
化石化(fossilization)とは
また、セリンカーは、中間言語において化石化(fossilization)が起こると指摘します。
これは、ある言語項目や規則が誤って習得され、それがそのまま残っていることです。
この化石化が起こる原因として、以下の5つを挙げています(p. 216-221)
①言語転移
1つ目は母語の影響です。
日本語母語話者が英語を話すときに「r」と「l」を間違って発音してしまうなどは、言語転移と考えられると思います。
②目標言語の規則の過剰一般化
これは、目標言語の規則を他の項目にも使ってしまうことです。
セリンカーの挙げていた例だと
- What did he intended to say?(p. 218)
というものがありました。
この場合、過去形に使う「-ed」を過剰に一般化して、疑問文でも使ってしまったと考えられます。
③練習上の転移
これは教室等での学習方法が影響することです。
セリンカーがあげていたのは、セルビア・クロアチア語話者の例です。
英語では「he」と「she」の区別があり、セルビア・クロアチア語でもその区別があるにもかかわらず、授業なのでいつも「he」ばかりで練習をしていたために、「she」を使わなければいけない場面でも「he」を使ってしまっていたそうです。
これは学習方法が影響を与えたと言えます。
④第二言語の学習ストラテジー
学習者の学習ストラテジーに関するものです。
傾向としては、目標言語の言語体系を単純化して考えることがあるようです。
例えば、現在進行形を学んだ学習者が、自分に現在起こっていることなら、現在進行形を使っていいのだと、「I am feeling happy」など、本来なら「I feel happy」にしなければいけないところに、現在進行形を使ってしまうことなどがあげられます。
⑤第二言語のコミュニケーションストラテジー
これは、コミュニケーションをするときに使うストラテジーによるものです。
このとき、コミュニケーションを円滑にすることを優先するため、意味の内容には直接関係のないような、定冠詞や複数形、過去形などを回避する傾向があるようです。
まとめ
セリンカーの中間言語について説明しました。
もっと詳しく知りたい方には、以下のような本もあります。
- 迫田久美子(1998)『中間言語研究 ―日本語学習者による指示詞コ・ソ・アの習得―』 渓水社
↑これは「指示詞コ・ソ・ア」の習得を中間言語の観点から研究したものですが、第一部で中間言語に関する研究の動向がわかりやすくまとめられています。
- Selinker, Larry. Rediscovering interlanguage. Routledge, 1992.
↑セリンカー自身が1992年に出版した中間言語に関する本です。