SLAとは
SLAとはSecond Language Acquisition(第二言語習得)の略です。1960年頃から活発に研究されるようになった分野です。
このSLAの歴史的変遷について、以下の4つの時代に分けて説明します。
(記事自体は計8記事で記載します。各番号をクリックすると、該当する記事にアクセスできます)
今回は1990年代以降についてです。特に認知的アプローチについて説明します。
前回の記事で述べたような社会的なアプローチも増えますが、それと同時に認知的アプローチも認知科学・神経科学などを取り入れて発展していきます。
特に、言語習得をするときに、学習者の頭の中では何が起こっているのかを探る研究が増えます。
気づきに関する研究
認知的アプローチで1990年度以降よく見られる研究の一つが、「気づき」に関する研究です。
なお、「気づき」といっても「noticing」「awareness」「attention」「detection」など様々な語がつかわれており、注意が必要です。
第二言語習得において、学習者が意識的に言語形式に注意を向けることが必要と言われるようになりますが、ただ、どのような注意をどの程度向ければいいのかという点において議論がなされるようになります。
例えば、Richard Schmidtは1990年の論文で、第二言語習得においてインプットを処理する際に、意識(consciousness)がどのような役割を果たすか議論しています。
- Schmidt, R. (1990). The role of consciousness in second language learning. Applied Linguistics, 11, 129-158.
Schmidtは、インプットを自分のものにする(intake)するためには、「気づき(noticing)」が必要だと主張します。
- Bergsleithner, J. M., Frota, S. N., & Yoshioka, J. K. (2013). Noticing and Second Language Acquisition: Studies in Honor of Richard Schmidt. National Foreign Language Resource Center at University of Hawaii. Honolulu, HI.
Tomlin and Villa(1994)は,注意(attention)という点からこの問題に取り組んでいます。
- Tomlin, Russell S., and Victor Villa. “Attention in cognitive science and second language acquisition.” Studies in second language acquisition 16.2 (1994): 183-203.
明示的知識・暗示的知識に関する研究
明示的知識(explicit knowledge)・暗示的知識(implicit knowledge)の役割についても議論されています。
明示的知識とは、意識的に理解されているもので、口頭でも説明できるようなものです。
「英語では主語が3人称単数現在形のときsをつける」など文法規則の説明などがその例です。
暗示的知識というのは、特に考えなくてもできる手続き的な知識です。例えば、英語が上達すると、いちいち「英語では主語が3人称単数現在形のときにsをつける」と意識しなくても、英語で話すときに自然に必要なら「三単現のs」をつけられるようになります。
ただ、「気づき」と同様、この2つの知識の役割についても議論が分かれています。
例えば、DeKeyser (1998)などは、コミュニカティブの練習が十分できれば明示的知識は暗示的知識に代わると述べています。
- DeKeyser, R. (2003). Implicit and explicit learning. In C. Doughty & M. Long (Eds.), Handbook of second language acquisition (pp. 313–348). Malden, MA: Blackwell
一方、Ellis (1993)のように、暗示的知識に代わるのは一部の明示的知識だけだという学者もいます。
まとめ
1990年以降に研究されていたテーマのうち、認知的アプローチについて紹介しました。
これらの研究に基づき、どういう教え方が効果的なのか、どういう気づきを促せばいいのか、どういうフィードバックをすればいいのかなどの研究も多くなされています。
次の記事からは2000年代以降の研究について書ければと思います。