モチベーション研究の変遷
Gardner とLambertの論文が出版されて以降、モチベーション研究が盛んになります。
GardnerとLambertの「統合的動機付け」と「道具的動機付け」は別個のものとして語られてきました。
ただ、前の記事でも述べた通り、就職などの「道具的動機付け」で言語学習を始めたとしても、学習をするにつれ、もっとその話しているコミュニティについて理解したいといったような、「統合的動機付け」が出てくることもあり、2つを別個として考えることへの批判も出てきます。
1980年~1990年代はモチベーションに至るプロセスや学習段階別の動機づけなど、モチベーションが多角的に研究されるようになります。
Deci とRyanの自己決定理論
例えば、社会心理学の分野ではDeci and Ryan(1985)が「自己決定理論(Self-Determination Theory)」を提唱します。
- Ryan, Richard M., and Edward L. Deci. Self-determination theory: Basic psychological needs in motivation, development, and wellness. Guilford Publications, 2017.
今日は、GardnerとLambert以降のモチベーション研究の一例として、この自己決定論の一部について紹介します。詳しく知りたい方は上記の本をご覧ください。
内発的動機付け
DeciとRyanは、どうすれば、人が外からやらされるのではなく、自分が興味、やりがい、楽しみをもって何かをするような内発的動機付け(intrinsic motivation)につながるかを考え、内発的動機付けの概念を発展させました。
DeciとRyanは内発的動機付けには、以下の3つを満たす必要があると考えました。
- 能力(competence):自分の能力を発揮していること
- 関係性(Relatedness):他者とつながっていること
- 自律性(autonomy):自己の行動を自分で決め、自分自身で一貫していること
特に、自律性を重視し、自分で決定したという気持ちが強い場合は、動機付けも強くなるといいました。
内発的動機にいたるプロセス
DeciとRyan (1985)は、動機なしの段階から、内発的動機に至るプロセスを提示しました。
動機なし | 外発的動機付け | 内発的動機付け | |||
外的調整 | 取り入れ 調整 | 同一化的 調整 | 統合的 |
表の左側は自己決定度が低く、右側にいくほど自己決定度が高くなります。
なお、「外的調整」「取り入れ調整」「同一化的調整」「統合的調整」の「調整」の元の英語は「regulation」です。
つまり、自分にその決定をさせるもの、自分を統制するものは何なのかという意味です。
- 「外的調整」
動機なし(amotivation)の状態からの第一段階です。これは、完全に外的な報酬や罰によって何かを行う段階です。
子どもが「やらないと親に怒られるからやる」などがそのケースに当たります。
- 「取り入れ調整」
第二段階は、「取り入れ調整」です。これは、罪悪感や不安を感じないためやプライドのために何かを行うことです。
例えば、「悪い学生と思われたくないから、遅刻しない」などがこれに当たります。
- 「同一化的調整」
第三段階は「同一化的調整」です。これは自分自身で必要と思うから何かを行うことです。
例えば、「受験に受かるためには、夏期講習に行った方がいい」と自分の判断で夏期講習にいく場合などがこれに当たります。
- 「統合的調整」
第四段階は「統合的調整」です。これは、その行動の価値を認め、さらに、その行動が自己の他の側面とも統合することです。
同じ「夏期講習に行く」であっても、「受験に受かるため」という直接の目的だけではなく、例えば「私は将来、エンジニアになりたい」という人生の目標があり、その目標(=自己の他の側面)ともその「夏期講習に行く」が関係していると考えている場合です。
その後の展開
このようにモチベーション研究が発展するにつれて、特に2000年以降は、どんな「自己」になりたいかといったような、自己を全体的に捉える研究がでてきます(アイデンティティ研究とも重なるところもあります)。
また、モチベーションを抽象的なものとして捉えるのでなく、その場その場で生まれ、変わっていくものとして捉え、ローカルな場で、他者と対話する中で、いかにモチベーションが生まれるのかを分析するような研究も出てきます。