言語教育におけるシラバスとその種類について②:場面シラバス・機能シラバス

シラバスの種類

シラバスは、そのコースでの学習項目の一覧を記載したものです。

学習項目を「どう教えるか」という焦点の置き方によって、以下のような種類があります(高見澤孟 2016, p. 31-34)。

  • 文法シラバス(grammatical syllabus)
  • 構造シラバス(structural syllabus)
  • 場面シラバス(situational syllabus)
  • 機能シラバス(functional syllabus)
  • 話題(トピック)シラバス(topic syllabus)
  • 技能(スキル)シラバス(skill syllabus)
  • タスクシラバス(task syllabus)

今回の記事では、このうち場面シラバス・機能シラバスとその利点・問題点について述べたいと思います。

 

場面シラバス・機能シラバスとは

場面シラバス」とは、「空港で」「郵便局で」「スーパーで」など、学習者が遭遇しやすい場面ごとに学習内容をまとめたものです。

機能シラバス」とは、言語の社会的機能に着目したシラバスです。私たちは言語を使って「挨拶」したり、友達と「雑談」したり、「依頼」したりと、様々な活動を行っています。

「挨拶する」「依頼する」「拒否する」「謝る」「注文する」「誘う」など、言語を使って行いたい行動別に指導内容を決めるのが機能シラバスです。

 

場面シラバス・機能シラバスの例

サバイバルのための日本語の教科書は場面シラバス・機能シラバスを組み合わせたものが多いです。

日本語超初級者向けのサバイバル日本語の教科書のまとめ(特に日本居住者向け)

  • 緒方由希子他 著 (2009) NIHONGO FUN & EASY:Survival Japanese Conversation for Beginners. アスク出版.

例えば、このサバイバルのための日本語の教科書「NIHONGO FUN & EASY」の構成は以下のようになっています。

  • Unit 1: 自己紹介
  • Unit 2: 場所を尋ねる
  • Unit 3: 買い物
  • Unit 4: コンビニ・レストラン
  • Unit 5: 許可を得る
  • Unit 6: 依頼する
  • Unit 7: 交通
  • Unit 8: 予定や行動について話す
  • Unit 9: 感想を言う
  • Unit 10: 食事
  • Unit 11: 世間話をする
  • Unit 12: 誘う

これを見ると、緑字の「Unit 1: 自己紹介」「Unit 2: 場所を尋ねる」「Unit 3: 許可を得る」「Unit 6: 依頼する」「Unit 8: 予定や行動について話す」「Unit 9: 感想を言う」「Unit 11:世間話をする」、「Unit 12: 誘う」などは言語を使って行う行動別に記載されています。

この部分は、機能シラバスといえるでしょう。

また、それ以外の「Unit 3: 買い物」や「Unit 4: コンビニ・レストラン」「Unit 7: 交通」「Unit 10: 食事」などのユニットは、言葉を使う場面だと考えられるので、場面シラバスといえると思います(「買い物」「食事」というのは「場面」でなく「機能」だという意見もあるかもしれませんが…)

 

何を「場面」「機能」と呼ぶかには多少の議論はあるにせよ、この教科書は、場面・機能シラバスの教科書といえると思います。

 

 

サバイバルのための日本語の教科書以外で、場面・機能シラバスで有名なのは、1999年に筑波大学が作成した「Situational Functional Japanese」です。

  • 筑波ランゲージグループ (1999). Situational Functional Japanese. 凡人社

これもタイトルの「Situational Functional(場面・機能)」にもあるとおり、場面・機能シラバスを使用しています。

最近、この教科書を使っているところは、私の知る限りほとんどないようですが…。

 

場面シラバス・機能シラバスの利点

場面シラバス・機能シラバスの利点として、以下のようなものがあります。

  • 実際に遭遇する場面・機能から短期集中的に学ぶことができる。
  • 実践的なコミュニケーション力を伸ばすことができる。

日本に旅行する場合など、「空港」や「レストラン」などの場面で、日本語を使わなければならない可能性がでてきます。また、「注文する」や「挨拶する」などの機能も必要になると思われます。

場面・機能シラバスを使うと、このような必要な場面での言語使用や、必要な言語表現から順に効率的に学ぶことができます。

また、文法・構造シラバスでは、実際に文型を学んでも使い方がわからないという問題がありましたが、場面・機能シラバスの場合は、実際の言語の使用状況に着目して構成されているため、実践的なコミュニケーション力ばせるとも言えます。

 

場面シラバス・機能シラバスの問題点

問題点としては、以下のようなものが指摘されています。

  • 文型を体系的に網羅できない。

場面や機能ごとに必要な言語表現を、難易度に関わらず導入するので、文型を体系的に積み上げて学習することができません

 

まとめ

今回はシラバスの種類のうち、「場面シラバス」「機能シラバス」について紹介しました。

コミュニケーションを重視するクラスの場合は、場面・機能シラバスはよく採用されるようですね。

 

他のシラバスについて興味のある方は以下の記事もご覧ください。