訂正フィードバックの種類
クラスで学習者が産出した発話が不自然だと感じた際に、教師が学習者の発話を訂正することがあります。
教師が学習者の誤用に対して、言い直したり、説明したりすることを訂正フィードバックといいます。
Lyster and Ranta(1997, p. 46-48)は、言語クラスの観察に基づき、フィードバックを以下の6つに分けました。
- 明示的訂正(explicit correction)
- リキャスト(recasts)
- 明確化要求(clarification requests)
- メタ言語フィードバック(metalinguistic feedback)
- 誘導(elicitation)
- 繰り返し(repetition)
以下、1つずつ見ていきます。
①と②は教師が正答を示します。
③~⑥は、教師は正答は与えず、学習者に自分で訂正するように促すものです。
教師が正答を示すもの
明示的訂正(explicit correction)
これは、教師が学習者の発話が間違えていると指摘し、正答を示すことです。以下のような例があります。
例1:
学生:私は大学に日本語を勉強します。
先生:actionが行われた場所のときは「に」じゃなくて「で」を使います。だから「大学で」ですね。
例2:
学生:昨日、大学に行きます。
先生:昨日だから過去形です。「行きました」ですね。
ただ、この明示的訂正は、やりすぎると学習者が自主的に話そうという意欲をそいでしまうおそれもあるといわれています。
リキャスト(recasts)
これは、学習者の間違えた文について、間違えていると直接は指摘しませんが、正しい文にして言い直すことです。
例1:
学生:私は大学に日本語を勉強します。
先生:ああ、大学で日本語を勉強しますね
例2:
学生:昨日、大学に行きます。
先生:昨日、大学に行きましたね。
上記のように、言い直すのがリキャストです。ただ、リキャストの問題点として学習者が自分の間違いに気づかないことが多いということも指摘されています。
学習者に自分で直すように促すもの
明確化要求(clarification requests)
これは、聞き返すことです。聞き返すことで、学習者が自分で訂正する機会を与えることができます。
例1:
学生:私は大学に日本語を勉強します。
先生:え?何と言いましたか?
例2:
学生:昨日、大学に行きます。
先生:え?もう1回言ってください?
メタ言語的フィードバック(metalinguistic feedback)
これは文法などの説明をすることです。ただ、明示的訂正やリキャストとは違って、正答を与えることはしません。
例1:
学生:私は大学に日本語を勉強します。
先生:actionが行われた場所のときに使う助詞は「で」です。
例2:
学生:昨日、大学に行きます。
先生:昨日は過去ですよね。だから動詞も過去形を使います。
誘導(elicitation)
これは、学習者の発言を途中まで繰り返すことで、学生自身が気づき、訂正できるように促すことです。
例1:
学生:私は大学に日本語を勉強します。
先生:あれ?私は大学..
例2:
学生:昨日、大学に行きます。
先生:すみません。昨日、大学に…?
文法の説明などはしません。
繰り返し(repetition)
学習者の発話を、ちょっと語尾をあげたりして繰り返して、学習者に間違いを気づかせることです。
例1:
学生:私は大学に日本語を勉強します。
先生:私は大学に…日本語を勉強します?
例2:
学生:昨日、大学に行きます。
先生:昨日、大学に行きます?
これも文法の説明などはしません。
まとめ
訂正フィードバックの種類についてLyster and Ranta(1997)を参考にまとめてました。
教師がフィードバックした直後の学習者の発話を「uptake(理解/取り上げ)」といったりします。
その学習者の反応(uptake)を見て、もしフィードバックが有効でなかったとわかると(学習者が自分の間違いに気づいていない場合など)、別のフィードバックを使って再度フィードバックするということもよくあります。
ご興味のある方は
訂正フィードバックについては、ただ正答を出すだけでなく、学習者に気づかせることが習得を促すという主張もあります。
ご興味のある方は、よろしければ以下の記事もご覧ください。
- ロング(Long)のインタラクション仮説(Interaction hypothesis)について
- Schmidt (1990) の気づき仮説(Noticing hypothesis)について
- 言語教育におけるアップテイク(uptake)とは何か?アップテイクとインテイクについて
訂正フィードバックにご興味のある方には以下のような本もあります。
- Mackey, A. (2013). Input, interaction and corrective feedback in L2 learning-Oxford Applied Linguistics. Oxford University Press.
- 大関 浩美(編)フィードバック研究への招待 ―第二言語習得とフィードバック. くろしお出版 (2015)