Discourse marker(ディスコースマーカー・談話標識)の3つのアプローチ
以前、Discourse markerについて備忘録を書きました。
Discourse markerは、文(sentence)レベルではなく、discourse(ディスコース・談話)レベルで役割を果たすものです。
1980年度ごろから研究されているようで、もともとは接続詞などの文と文を間をつなぐものを意味論的に分析していたようですが、その後は社会言語学・語用論・相互行為言語学など様々な角度から研究されるようになっています。
また、ohなどの間投詞や、I mean・you knowのようなつなぎ語を含めることも多くなっているようです。
Discourse markerが何を含むかは議論が分かれるようですが、以下の本の中にDiscourse markerについての3つの異なるアプローチについて説明した論文があったので、まとめておきます。
- Maschler, Yael and Deborah Schiffrin, 2015. Discourse markers: Language, meaning, and context. In Deborah Tannen and Heidi Hamilton (Eds.), The Handbook of Discourse Analysis (second ed.), 189–221. Oxford: Blackwell.
3つのアプローチは以下のとおりです。
- Schiffrinのディスコースアプローチ
- Fraiserの語用論的アプローチ
- Mascherの相互行為言語学(interactional linguistics)アプローチ
Schiffrinのディスコースアプローチ
Schiffrin (1987, p. 31)は、社会言語的な視点から、談話における機能を考察しており、Discourse markerを以下のように定義します。
“Sequentially dependent elements which bracket units of talk”
発話をつないだり、まとめたりような役割をするもので、独立して存在するものではなく、会話の一部をなすものというような意味です。
この定義だと、and, but, orのような接続詞や、ohなどの間投詞、now, thenなどの副詞や、you know, I mean などが入ります。
これらの言葉は、前の発話と次の発話をつなぐような役割をします。ただ、単独では存在せず、あくまで前後の文脈があって使えるようなものです。
また、Schiffrinは、ディスコースマーカーは発話の冒頭になければならないなど、ディスコースマーカ―の条件もあげているようです。
Fraserの語用論的アプローチ
Fraserは語用論的観点からディスコースマーカーを見ています。
つまり、ディスコースマーカ―の使用がどういった効果・機能を持つのか、話し手の意図は何なのかという点に着目しています。
Fraserは、会話の内容と、その会話を通して話し手が示したい意図を分けて考えています。
例えば、窓が開いているため寒い部屋で「寒いね」といった場合、「寒いね」というのは会話の内容ですが、話し手の意図というのはもしかすると「窓を閉めたい」また「窓を閉めてくれ」というものかもしれません。
この話し手の意図を示す役割を果たすマーカーとして、以下の4つを挙げています(Fraser 1990, 2009)。
- Basic pragmatic markers
- Commentary pragmatic markers
- Parallel pragmatic markers
- Discourse management markers
なお、4つ目のDiscourse management markersというのは、後の論文(Fraser 2009)で加えられたもので、discourse markersとは違うもののようです。
Fraserによるとdiscourse markersというのは2つ目のcommentary pragmatic markersの中に含まれるようです。
Commentary pragmatic markersというのは、発話内容に解釈を加えるもので、例としては「frankly」などがあるようです。
例えば、「Frankly, this is not bad」などというと、「this is not bad」という内容を自分がどうとらえているか、「frankly」という副詞を通して、自らの考え・解釈を入れています。
Discourse markerはこのcommentary pragmatic markersの一部で、以下のように定義されています。
“a class of expressions, each of which signals how the speaker intends the basic message that follows to relate to the prior discourse” (Fraser 1990, p. 387)
その前の談話と、その後の談話のメッセージがどう関係するのかという点について、話し手の解釈を示すための表現ということでしょうか。
Discourse markersとしては以下の3つの機能分類を挙げています。
- 対比機能(butなど)
- 拡張(elaborative)機能(andなど)
- 推論機能(soなど)
Mascherの相互行為言語学(interactional linguistics)アプローチ
Mascherは、会話の中で相手といかに会話を構築していくかという相互行為言語学の観点からDiscourse markerを分析しており、メタ言語を使うプロセス(process of metalanguaging)に着目しています。
なお、メタ言語というのは、その言語について説明するときに使われる言葉のことです。
「英語は三人称単数現在形のときはsをつける」と言語そのものについて説明したり、「さっきいったことはただの冗談だよ」と「さっきいったこと」の機能(=「冗談」)について説明するなどがメタ言語と言われています。
あくまで会話の文脈の中でみていかなければならないのですが、このMascherの立場ではdiscourse markerは以下のようなものが含まれます。
- andなどのように前の発話と次の発話をつなぐもの
- “go on”, “wow”のように相手との関係性を構築するようなもの(相手が話しているときに「go on」ということで、相手の発話をさらに促していると考えられます。)
- “oh”や”um”のように話し手の認知プロセスを示すようなもの
Mascherは、discourse markerは以下の2つの条件があると言っています。
- 意味的には、発話が生じた文脈についての、メタ言語的な解釈が入っている。
- 構造的には、イントネーションユニットの冒頭になければならない。
イントネーションユニットというのはChafe (1994)が提唱しているもので、一息で話せるような発話のまとまりのことです。要するに、話し手が交替した場合は、その交替したときの冒頭になければならず、逆に同じ話し手が話し続けている場合は、一つの発話が一区切りついた後の、次の発話の冒頭になければならないようです。
まとめ
Discourse markerについては、いろいろ定義があるようで、それによって含まれるものも違うようですね。
Discourse markerの習得についてもいろいろ論文があるようですが、網羅的に調べるのではなく、「you know」「I mean」など、一部の表現に絞って習得をみるものが多いようです。